君は大人の玩具という。
牧の見送りの日は、
空港の一角スペースを埋めるほどの
人数が集まった。
と言っても、
浅野、荻原をはじめとした消外の医局員、
消化器病棟の看護師、
総合外科部門のスタッフたち、
セラヴィのママ、リンちゃん、ミキちゃん、カナちゃん…
以下、省略。
既に荷物を向こうに運んだという牧は、
「ちょっとコンビニ行ってくる」
ぐらいの身軽さだった。
搭乗時間が来るまで、
牧は一人一人と言葉を交わしていた。
いずれは日本に戻ってくる話なのに、
これだけの人が集まることに
京子は感心した。
こんなチャランポランのために、
涙を流している子さえいる。
牧は浅野と荻原と抱き合ってから、
最後に京子に向き直った。
「きょんちゃん。
しばらく僕がいなくて寂しいと思うけど、
浮気しちゃだめだぞ?」
京子は苦虫を嚙み潰したような顔をしてみせた。
「私べつに恋人じゃないですし、
そんなこと言われる筋合いないですけど」
「えぇ!?」
その場にいたほぼ全員が反応した。
京子はまるで自分がおかしい
かのような錯覚に見舞われた。
「え?」
「てっきりもう君らは恋人なのかと」
荻原がそう言うと、
浅野もうんうん、と頷いた。
京子は慌てて言った。
「私はあくまでも、
自分の勉強のために留学するんです」
「わかってるよ」
牧が優しく微笑んで言った。
「だから呼んだ」
それから一歩京子に近づいて、
みんなが見ていることもおかまいなしに
京子の耳元に顔を寄せた。