君は大人の玩具という。



「でも、僕はあの夜の続き、
 期待してるからね…」


そう囁いてから、
パッと離れていつもの笑顔に戻る。

それとは正反対に、
京子は一気に鼓動が跳ね上がった。


「あれは、夢、じゃ…?」


みるみる顔を赤らめる京子に
牧はクスッと笑ってから
もう一度全員を見渡した。

牧の乗るフライトの、
搭乗案内アナウンスがかかる。


「ではでは皆さん、ごきげんよう」


深く一礼をして、
颯爽と歩き出した。


「またねー」

「元気でねー」

「頑張ってねー」


色々な言葉が牧の背中に飛んでいく。

牧はもう一度振り返って
大きく手を振った。

京子は、結局言葉が出なかった。

ただ、牧の姿が見えなくなって、
どこかほっとした気もした。


「行っちゃったな」

「またすぐ戻ってくるよ。
 もっとレベルアップしてね」

「そうだな。
 俺たちも、負けてられないな」

「うん」


浅野は荻原と言葉を交わしてから、
隣にいた京子に振り返った。


「千秋さん」

「…は、はい」


京子は、浅野の落ち着いた声に顔を上げた。


「牧くんのこと、頼みましたよ」

「ぇ…」


その渋く柔らかい声と、
紳士的な微笑みに
京子はようやく我に返った。


「…はい!」





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