君は大人の玩具という。
「倒れてどのくらいですか」
牧が男性の横に跪くと、
気付いた女性は一瞬で
牧を医療者と判断したようだった。
「1、2分です。
恐らく心タンポ起こして心停止していますっ」
そう言って胸骨圧迫を始めた。
「解離か…って、え?」
牧は思わず顔を上げて女性を見た。
数々の女を見てきた自分的尺度で、
まだ20代前半。
ということは恐らく看護師。
大動脈解離という予想は
店前であることから大方予想はつくが、
そこから、"大動脈からの出血による
心タンポナーデで心停止を起こしている"ことまで、
普通、分析できるものだろうか…?
「代わります」
牧はそう言って胸骨圧迫を交代した。
女性が泣きじゃくる娘の相手をしつつ、
「いつから倒れたか」
「アレルギーはあるか」
「どんな薬を飲んでいるか」
などを、うまいこと引き出している。
冷静を保てない家族に、
なだめながら必要最低限の
情報を引き出しているのが聞こえる。
何者だ…?
救急車のサイレンが聞こえてきた。
牧は周囲の人間に道を開けるよう言った。