君は大人の玩具という。
救急隊員が男性を担架に乗せた。
「医療者の方ですね。
詳しい情報をお願いします。
できれば一緒に乗ってください」
「わかりました。
彼女も一緒に」
「ご家族の方ですね、乗ってください!」
牧は一緒に救急車に乗り込んだ。
ドアが閉まるや否や、
「東南大まで!」
と伝えた言葉が、女性と重なった。
「あの、お二人とも、東南大の先生?」
牧が驚いて女性を見つめると、
向こうも同じようなリアクションをしていた。
「僕はそうですけど」
「私は、看護師です」
隊員は「わかりました」と言って、
東都南大学病院に連絡し始めた。
ここからだと東南大が一番近いこともあって、
そこ一択だと牧も思っていた。
隊員が電話をして状況説明するも、
神妙な面持ちで二人に向き直って言った。
「今、一件心臓外科のオペしているらしくて、
人手が足りないそうです」
「それなら、僕やりますよ」
「え?」
牧があっさり言うと、
女性も隊員もまた驚いていた。
「心臓の先生なんですか?」
「専門は消化器ですけど、
心臓も何度もしているし。
解離ぐらいならできますから」
「あ、じゃあ、伝えますね!」
そう言ってまた電話し始めた。
だが、そこで牧はふと自分一人では
どうもできないかもと思いだした。
「でも、人手がいるなぁ」
牧は上司の浅野と、
近々日本を発つ予定の同期の麻酔科医に連絡した。
「今言うと怒られるかなぁ。
でも、ま、いっか」
そう独り言を呟いてメッセージを送った。