君は大人の玩具という。
二重扉を順に開けて2人が中に入ると、
ちょうど人工心肺を回すタイミングだった。
MEと呼ばれる臨床工学技士が
執刀医と言葉を交わし
人工心肺を回していく。
患者の頭側に麻酔科医2人、
外回りの看護師が2人、
外からサポートに回っている。
術野には執刀医と助手が2人、
器械出し看護師が1人、
その周囲を学生数名が取り囲んでいた。
滅多に手術に顔を出さない主任が
誰も知らない顔を連れてきたことで
周りにいた何人かが
珍しそうに振り返る。
男は「なるほど」と周囲を見渡した。
壁モニターの大画面には止まった心臓が
でかでかと映し出されている。
その反対側には、中2階と呼ばれる場所があり
上から術野を見下ろせるようになっていた。
男はふと、この部屋の違和感に気づいた。
術野を見る。
ルーペをつけた外科医が、
患者の心臓に全神経を集中させているのがわかる。
よくある光景だが、何かが違う。
この空気感。
男のよく知るそれではない。
男は器械出しの横にある器械台を見た。
器械出しは男の視線を気にも留めず、
黙々と作業している。
そうか…
男は器械出しの千秋を見て、
その違和感に気づいた。
外科医との言葉のやり取りが、
一つもないのだ。