君は大人の玩具という。




スタッフステーションにいた
看護師たちが注目する中、
牧は京子と渚に言った。


「本当にありがとうね。
 君らだったから、
 あのメンバーだったから
 助けられたと思うよ」

「…ありがとうございました」


2人が揃って頭を下げると、
牧はもう一度微笑んでから、
今度は京子にぐんと近づいた。


「もっと、君としたいな」

「…へ?」


周囲がざわつく中、
牧は構わず、ぽーっとした
京子に向かって言った。


「僕専用の器械出しにしたいぐらい。
 僕たち、相性良かったでしょ?」

「あ、オペ、ね。
 まぁ…いや、どうなんでしょう」

「もっと君のこと知りたくなっちゃった♪」


あまりに能天気で軽い言い方に、
京子も周囲も口あんぐり状態だった。

渚が京子にこっそり耳打ちした。


「さすが、女たらしで
 有名なだけありますね」

「すごい人だと思ったのに…」


京子がみるみるうちに
嫌悪感いっぱいの顔になるも、
牧は構わず、京子の頭に
ポンッと手を乗せた。


「これからよろしくね。
 きょーんちゃんッ♡」

「きょっ…はぁ!?」


京子は顔を赤らめて
牧を睨みあげた。


「いや、京子なんですけど」

「可愛いでしょ?
 きょんちゃん♡って、どう?」

「やめてください」

「もう、こんな近くにこんなキュートな
 天使がいるなんて知らなかったよ~?
 いや、きょんちゃんは
 僕の幸運の女神だな」


天使やら女神やらのワードが出始めた頃には、
誰もが「またか」の反応で興味をなくしていた。

誰もが、次のターゲットは京子か。

ぐらいにしか思っていなかったに違いない。

まさか数年後、
この2人がアメリカに発ち、
日本人といえば牧と千秋の名で通る程の
活躍と功績を残すとは、
誰も考えもしなかっただろう。

かく言う京子自信が、
一番想像していなかったことは
言うまでもないわけだが…。



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