君は大人の玩具という。


広い吹き抜けのエントランスに
京子の声が僅かに響く。

隣では牧が少なからずのショックを受けて
捨てられた子犬のような顔をするので、
警備員たちが不思議そうに見るのも無理はない。


「ひどいっ…この2年間、
 頑張ってきたのに…」


2人は中に入ると同時にサングラスを外し、
牧はいつものカラーレンズを装着した。

関係者専用のエレベーターホールに入って、
京子は上に向かうボタンを押した。


「結婚は…」

「え?」

「彼女になってから、考えます」


牧の表情が、瞬く間にキラキラと輝いた。


「…きょんっちゃんっ‼」


そして今にも飛びついてきそうなその顔面を
京子は片手で抑えつけた。


「愛してるよッ!
 僕のマイスウィートハニィー♡」


チン、とエレベーターが到着する音が鳴った。


「…先行きますよ」


京子に続いて、牧が唇を尖らせながら
エレベーターに乗り込んだ。


「もぉ!2年もいたっていうのに、
 君は全然アメリカに染まってないねぇ。
 こう、もっと情熱的に…」

「くどい」


京子がそう言うのと、
ドアが閉まるのが同時だった。

その瞬間、京子は牧の頬を抑えて、
うるさい唇を塞いだ。


「んッ…⁉」


京子は自分の唇を離して、
レンズ越しに牧の目を
しっかりと捉えた。


< 139 / 145 >

この作品をシェア

pagetop