君は大人の玩具という。
広い吹き抜けのエントランスに
京子の声が僅かに響く。
隣では牧が少なからずのショックを受けて
捨てられた子犬のような顔をするので、
警備員たちが不思議そうに見るのも無理はない。
「ひどいっ…この2年間、
頑張ってきたのに…」
2人は中に入ると同時にサングラスを外し、
牧はいつものカラーレンズを装着した。
関係者専用のエレベーターホールに入って、
京子は上に向かうボタンを押した。
「結婚は…」
「え?」
「彼女になってから、考えます」
牧の表情が、瞬く間にキラキラと輝いた。
「…きょんっちゃんっ‼」
そして今にも飛びついてきそうなその顔面を
京子は片手で抑えつけた。
「愛してるよッ!
僕のマイスウィートハニィー♡」
チン、とエレベーターが到着する音が鳴った。
「…先行きますよ」
京子に続いて、牧が唇を尖らせながら
エレベーターに乗り込んだ。
「もぉ!2年もいたっていうのに、
君は全然アメリカに染まってないねぇ。
こう、もっと情熱的に…」
「くどい」
京子がそう言うのと、
ドアが閉まるのが同時だった。
その瞬間、京子は牧の頬を抑えて、
うるさい唇を塞いだ。
「んッ…⁉」
京子は自分の唇を離して、
レンズ越しに牧の目を
しっかりと捉えた。