君は大人の玩具という。


普通は、外科医が欲しい器械を言って
器械出し看護師はその器械を渡す。

しかし、外科医は一言も発していない。

つまり、この器械出し看護師は
オペ手順と外科医の特徴・傾向を
すべて把握しており、
的確なタイミングで適切な器械を渡しているのだ。

しかも、先ほど主任が言っていたように
手術自体、かなり早い。

にも拘わらず、
まったく散らかっていない器械台。

細かい手技に無駄がなく、
完璧な器械出しと見た。

だが、熟練の技とは思えない。
まだ若く、自分より年下に見える。


「あの人、何年目ですか?」


男が器械出しを見ながら主任に耳打ちした。

主任はふぅ、と呼吸を一置きして言った。


「5年目、だったかな。
 千秋は心臓とかよくついてるから、
 この先生にもついていけるタイプなんですよ」

「千秋…」

「あ、千秋って上の名前ですよ。
 千秋京子。
 私も最初下の名前かと思ったんですけど…」


そこからの主任の独り言は、
耳に入らなかった。

千秋京子。

帽子とゴーグルとマスクで
目元しか見えていないが、
立ち姿が実に美しいものだ。

彼女の器械出しとしての腕は、
一流だろう。
少なくとも、この手術においては。


なかなか興味深い…


主任がほかの部屋も回ることを提案したが、
男はしばらくこの部屋にいることを伝えた。


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