君は大人の玩具という。



更衣室でスクラブに着替えた後も
牧はしつこく京子の顔を覗き込んできた。


「ねぇ、受付行く前にもっかいしよ?」

「こんなところで⁉」

「うん。ダメ?」

「ダメ」


手術室に続く廊下の前で
帽子とマスクを装着する。

物の配置が少し変わってはいるものの
京子はこの感じが懐かしかった。

ただ、大きく変わったこともある。

前までは存在だけで鳥肌ものだった牧が、
今では横にいるだけで安心できる。

そしてどんなことでも
乗り越えられる気持ちになれる。

まさかこんな自分になるなんて、
数年前は思いもしなかった。


「…本当、わからないものだなぁ」

「ん?なにが?」


牧がもじゃもじゃ頭を帽子にしまいながら言った。

京子は鏡越しに牧を見てから、
クスッと小さく笑みを溢した。


「いいえ、何でも?」


そう言って懐かしの故郷である
総合外科部門のスタッフステーションに
向かって歩き出した。


「あ、きょんちゃん待ってよ~」


牧が慌ててついてくる。
京子は前を向いたまま牧に言った。


「今日のオペ、ちゃんと覚えてますか?」

「もちろん!開胸・開腹で食道がん摘出」

「長くなりそうだなぁー」

「大丈夫!5時間!」

「7時間」

「5時間半!」

「6時間」

「…6時間、か。うん」



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