君は大人の玩具という。
その後も手術はスムーズに進み、
男が部屋に入ってから20分で人工心肺離脱。
手術時間自体に2時間半とかからなかった。
「予定通り終了」
「お疲れさまでした」
京子が器械のカウントをするのに
台を転がして壁際に向かった。
手術が終われば、患者の対応は
麻酔科医と外回り看護師の担当だ。
器械出しは最大の仕事を終え、
あとは力を抜いて片づけをするだけだ。
そう知っている男は、
京子の背後に近づき、
まず声をかけようとしたのだが。
「あの…‼」
「きょーんちゃんッ♡」
「え?」
どこからともなく現れた怪しすぎる人物が
男と京子の間に割り込んできた。
背は男より高く細身だが、
帽子を被っていてもわかるくるくるなパーマに
カラーサングラス。
かなり変わった人物と見て取れる。
紺色のスクラブを着ているということは
どこかの外科医なのだろう。
心臓外科の手術室に
このテンションで入ってこれるとは
余程上の立場か、あるいは…
「今日は何の用ですか」
終わったばかりで疲れているはずだが、
京子は慣れた様子で
この外科医に向き合うことなく言った。
「僕も今終わったところだから会いに来たの。
お疲れさま、きょんちゃん」
「レントゲン撮りまーす」
放射線技師の言葉で、
全員が部屋から出る。
京子と外科医が、すぐ近くのドアから
クリーンルームと呼ばれるエリア
(各部屋と繋がっている廊下)に出た。
男もそれに続き、ドアを閉める。
男の存在など気にも留めず、
外科医の京子への口説きが続いた。
「疲れてなかったですけど、
あなたの顔を見ると一気に疲れました」
「えぇ!じゃあ僕が癒してあげる」
「それなら私の前から消えてください
今すぐに」
「そんな寂しいこと言わないでよぉ」
京子が手に持っていた消毒鉗子を振り上げると、
外科医は身構えるように「あ、待って…」と
両手を上げた。