君は大人の玩具という。


ピ…と部屋から音がして、
また全員が部屋の中に戻る。

スタッフがレントゲン写真を確認し、


「レントゲンOKです」


と心臓外科の執刀医が言うと
京子は床に落としていた物などを
拾って本格的な片づけを開始した。

めげずに京子にうざ絡みを続ける外科医は
手袋をして器械の分解を手伝いながら
(邪魔をしながら?)言った。


「ねぇきょんちゃん、
 駅前に美味しいスペイン料理のお店
 見つけたんだけど、今晩どう?」

「行かないけど、なんてお店?」

「エスパーニャ」

「そのまんま」

「僕がよく行く"セラヴィ"ってお店の近くでね」

「それ風俗ですよね」

「ちがうよ!キャバクラだよぉ
 僕は風俗には行かないぞ?」

「どうでもいいんですけど」

「そこのリンちゃんって子が教えてくれたんだけど、
 ピルピルがとんでもなく美味しくて」


「あの!」


ピルピルの話題までいってしまうと
もう入る隙がないと悟った男は、
2人の間から声を上げた。

外科医が京子から一歩下がって
眼鏡の縁の上から男を見上げた。


「…あれ、君、誰?
 あッ!もしかしてきょんちゃんの新しいファン?」

「いや、そういうのではなく」

「てことは、僕のライバル!?」

「うーるさい!」

「ギャッ‼」


京子が外科医の脛骨に蹴りを入れると、
外科医は負傷した弁慶の泣き所を抑えて
しゃがみこんだ。

京子は「すみません」と男に言うと、


「ほら、邪魔」


しっし、と外科医をドアから
クリーンルームに追い出し
容赦なく目の前でドアを閉めた。


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