君は大人の玩具という。



涙目になりながら蹴られた脛骨を抑え、
牧はドアの真ん中にある
小窓から中を覗いた。

突然現れた、色白で目がくりっとした
まるで女のような男に
京子は優しく微笑みながら会話している。

自分には見せたことのない類の顔だ。

背は自分ほど高くはないが、
京子とさほど目線の高さが変わらないからか
楽しそうに話しているのが余計に気に入らない。


「いい感じですね」


通りすがりの渚が後ろから現れ
牧の隣に並んで呟いた。

他の人間から見ても
そう見えているという事実が
余計に牧の心にヒットした。


「全然いい感じじゃない!
 誰なの?あの青二才は」

「青二才って…
 うちの救急から移動してきた干場さんです。
 シアトルの病院にいた経験もあるらしいですよ」

「シアトルだ?
 そんなこと言ったら僕だって
 ミュンヘンにいたことあるのに」

「そこで張り合ってどうするんですか。
 干場さんは特定行為看護師の資格も持った
 いわば、エリートナースですよ」

「ふーん、エリートナースねぇ…
 ま、きょんちゃんの腕を認めているとなれば、
 目だけはいいみたいだねぇ」

「え…?」


渚が首を傾げたことには反応せず、
牧は「ふむふむ」とドア越しに
干場へ品定めの視線を向けた。

カラーレンズが、嫉妬とライバル心でギラリと光る。

かと思えば、
京子が干場に対してくしゃっと目を細めて笑うと
牧の心はズキッと音を立て、首を垂れた。


「普通に傷ついてるし…」


渚は同情の一言を残してその場を後にした。


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