君は大人の玩具という。
#3.試練


干場から器械出しの腕を褒められた京子は
実にいい気分でいた。

干場との話は弾み、病院を紹介するがてら
一緒に院内のレストランへ行く約束をした。

学生や職員向けのお手軽な食堂とはべつに、
病院の最上階にはちゃんとしたレストランがある。

京子は今日のリーダーから
キャベジをすぐに終えたご褒美として
レストランで悠々とランチをする許可を得た。

職員用のエレベーターに乗り、
最上階の15階ボタンを押す。

その間も京子は干場の並々ならぬ経歴を
聞きだす時間を楽しんだ。


「シアトルでもオペ看をされていたんですか?」

「いや、向こうでは周麻酔期看護師をしていて。
 知ってる?日本じゃあんまり認知されてないよね」

「ちらっと聞いたことあります!
 でも凄いですね、ほんとに、医者みたい」

「日本みたいな看護師感は、
 向こうには全然なかったね」


この場所しか知らない京子にとって、
干場の話はここ数分の間だけでも
実に魅力的で面白かった。

自分の経験値から湧き出ている干場の自信が、
京子にはないものだったことに惹かれていた。

エレベーターの中で話に花が咲いていると、
8階で止まり、ドアが開いた。

そして京子にとっては不運にも、
邪魔者が姿を現した。


「きょんちゃんッ‼
 また会えちゃったねぇ」

「げっ」


牧が先輩医師と共に乗ってきた。

狭いエレベーター内にしては
あまりにも大きすぎる声が響く。

京子はすかさず干場の後ろに隠れたが
それは何の意味もなさなかった。

いや、まったくとまでではないようだ。

干場が牧を見上げて言った。


「お疲れさまです、牧先生」

「あ、干場くんだっけ?
 お疲れさま~」


牧はニコニコと笑顔で対応するが、
頬が若干ひきつってすらいた。

そんなことは気にも留めず、
干場は牧の隣にいた
色黒でこれまた一段と逞しい
筋肉質な医師に視線を向けた。


「はじめまして、干場大智(ほしばだいち)と申します。
 本日より総合外科部門に配属となりました」

「消外の荻原です。よろしく!」


巨漢で肌の黒さから白衣が一層白く見える。
低い声は覇気があり、THE・体力系な雰囲気だ。


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