君は大人の玩具という。
京子も思わず箸から顔を上げた。
大血管にがんが侵食されているとは
さすがの京子も初めて聞いた。
干場も言葉を失っているが、
牧は黙々と食事を続けていた。
荻原が、そんな牧を見てフッと笑って言った。
「ま、珍しい症例ではあるが、
俺たちも経験がないわけじゃない。
心外に協力依頼もしてあるし、
その辺は向こうに任せるさ」
「合同オペということですね。
でもさすがに結構時間かかりそうですね」
「俺は12時間ぐらいと読んでいるが」
荻原がちらっと牧を見た。
牧はサバの味噌煮を箸で崩しながら言った。
「10時間です」
干場が「いやいや、さすがに…」と笑う。
「その時間で終わったらそれこそ
世界レベルじゃないですか」
「シアトルも大したことないねぇ」
牧が不適に右口角を上げた。
そう言いつつも、味噌汁からの湯気で
カラーレンズが見事に曇っている。
牧は味噌汁を一口すすってから、
その曇ったレンズ越しに干場を見て言った。
「有能なスタッフが揃えば、
オペ時間なんていくらでも短縮できるものだよ」
ね、きょんちゃん?
そういう牧の本心が、
京子はいまいちわからなかった。