君は大人の玩具という。


手術中なら、器械出しとして、
執刀医が欲しい器械や、
この後どう展開していくか
なんとなく想像して、準備もできる。

だが、いざ真面目に牧と向き合ってみると、
何を考えているのか、全くわからない。

いつもふらふらっとやってきて、
鳥肌が立つようなことばかり言って。

京子を好きと言いながら、
街中のキャバクラに顔が利くほどの女好きで。

こっちが心配して見せても
その心配を受け取ろうとはしない。

京子は返す言葉が思いつかなかった。

牧はフッと小さく笑って言った。


「…大丈夫。オペは必ず成功させる」


頭にポン、と軽い感触。

京子が顔を上げると、今まで見たことのない
優しい微笑みがそこにはあった。


こんなに背、高かったっけ…


結局自分が慰められただけな気がして、
京子は恥ずかしさと複雑な感情で
むずがゆくなった。

なんとかこの気持ちを誤魔化そうと
おろおろしたところで、ふと我に返った。


「あ、もう一回手洗いし直してくださいね。
 不潔ですよ、その右手」

「あ、そだね!」


京子の頭に乗せていた手を見てから
えへへ、と笑って
牧はもう一度手洗いを始めた。

その笑みを浮かべた横顔を見つめて、
京子は何とも言えない感情に駆られた。


ほんと、何を考えてるんだろ…


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