君は大人の玩具という。
#4.魅力
いよいよ心臓外科・消化器外科のオペを
翌日に控えた今日。
京子は明日の患者のカルテを見て
情報収集をしていた。
患者氏名:室田花枝、52歳。
疾患:食道がん、胃がん、膵臓がん。
予定術式:胃・食道再建、膵頭十二指腸切除術
門脈・肝動脈再建を伴う
検査結果やCT画像を見ても、
状態が良くないことがよくわかった。
たしかに、腫瘍の一部が大血管にめり込んでいる。
血管の中までいかず、外側で食い留まっていることが
唯一の救いと言えるだろう。
看護師記録を遡っていると、
京子はある日の記録でスクロールを止めた。
『孫の入学式までは生きていたいんです。
無謀だってわかってますけど、
どうしても手術してほしくて。
でもそう言ったら、今までの
病院全部で断られました。
もうここで10個目です』
そりゃそうだろう。と京子は思った。
これだけの大手術は、手術するだけで
命の危険が伴う。
大量出血の可能性や縫合不全、
創部からの感染リスクも高い。
なにより、患者の回復に時間を要する。
それだけの説明は、もちろん患者にされていた。
だが、それでもこの患者は手術を望んだ。
そして、10の病院が匙を投げたこの患者を
牧は手術すると言って引き受けた。
一歩間違えたら、自分の立場も危ないのに…
術中死でも起きれば、それこそ訴えられかねない。
それだけのリスクを背負ってでも、
牧はなぜ手術することを約束したのか…。