君は大人の玩具という。
ゆっくりとカーテンを開けると、
驚いた顔の花枝と
お見通しといった顔の牧が
京子を見上げていた。
「すみません、盗み聞くつもりじゃ。
私もご挨拶に伺ったものですから」
と言いつつ鼻をすすると、
相変わらずのもじゃもじゃ頭が
クスッと笑って花枝に言った。
「手術室看護師の千秋さんです。
明日、僕の右腕として手術についてもらいます」
「まぁ、そうですか。
どうぞよろしくお願いいたします」
「こちらこそ」
京子がぺこりと頭を下げると、
牧は「彼女はね」と続けて言った。
「本当に優秀な看護師さんなんですよ?
彼女がいてくれるから、
明日の手術は僕は失敗する気がしません」
「うふふ、それはすごいわねぇ」
「先生、おだてないでください」
京子は牧の隣に立って、
改めて花枝に向き直った。
「看護師の千秋京子です。
明日は牧先生のチームの一員として
全力で手術に臨みます。
ご様子を伺いに参ったのですが、
笑顔が見られて安心しました」
「室田花枝です。
わざわざありがとうございます。
牧先生の顔を見たら、いっつも元気になれるの」
「牧先生のこと、信頼されてるんですね」
京子がそう言うと、
牧は眼鏡の奥でやや目を見開いたようだった。
だが花枝が、
「えぇ、それはもう!」と言うと
また穏やかな笑顔に戻っていた。
「きょんちゃんも、僕のこともっと
信頼してくれたらいいのになぁ」
「それ今言いますか?」
京子が思わず牧を見ると、
花枝が小さく笑って言った。
「うふふ、してますよねぇ」
「え?」
京子と牧は同時に花枝を見た。
花枝は二人を交互み見て言った。
「お二人とも、互いにとっても
尊敬し合っているのが、
見てすぐにわかりましたよ」