君は大人の玩具という。



本来、日勤帯が終われば
看護師は夜勤に交代する。

だが、今回のオペはチームだった。
イレギュラーだが、京子と干場は
最後までこのオペにつくことが認められていた。

オペは怖いほど順調に進んだ。

腹大動脈周囲がんの剥離、
門脈再建に食道・胃再建、
膵臓周囲の複数箇所の吻合。

そして、牧の最後の一縫いが終わり、
その糸を浅野がパチンと切った。


「よし、終了!」


牧の声で、干場がタイマーのカウントを止める。

時間は9時間48分20秒。

一同が張りつめていた糸が切れたように
はぁーっと揃って息を吐く。
京子もようやく肩の力が抜けて
体が一気に重たく感じた。


「予定通り終了しました。
 出血は?」

「なんと…850㏄です」


新谷がパソコンを見て言うと、
自然と拍手が沸き起こった。

それは中2階からも同様だった。

さすがだ…と首を振る人間もいる。


「お疲れさま、牧くん。
 素晴らしかったよ」


浅野が牧の腕をポンと叩くと、
荻原がその倍以上の力で牧の肩を
ばしばしと叩いた。


「さすがだったよ、ありがとう!」


牧は「えへへ」と言いつつも
花枝を見る医者の眼差しを変えなかった。


「これからですよ。
 何事もなく、退院してもらえたら
 初めて成功したと言えるでしょう」

「医者の鏡だな、お前は」


荻原の言葉に、牧はおちゃらけて言った。


「それほどでも、ありますかねぇ」


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