君は大人の玩具という。
ここでいう「僕、やっとこうか?」とは、
消化器外科医である牧が
本来は麻酔科医がするはずの挿管をする、
という意味である。
全身麻酔で行う手術は、
薬を使って患者の呼吸を止め、
代わりに人工呼吸器を使って患者を生かす。
その人工呼吸器と患者を繋ぐ
超大切な気管チューブの挿入を、
このふわふわっとした外科医がやると言っている。
これは簡単に言えば、
まったく演技経験のない素人が
月9の主演を「やっとこうか?」と
言っているのと同じくらいのぶっとび発言だ。
「牧くん、やったことあるの?」
浅野が聞く頃には、牧の手には
患者を眠らせる薬が握られていた。
「前いたところでは自科麻酔してましたよ」
「そっか、じゃあ大丈夫だね」
頷く浅野に、京子は「いやいやいや」と向き直った。
「大丈夫ですかね?」
「牧くんは何でもできるからね」
「どう、見直した?きょんちゃん」
京子が「いいえ」という前に
白い薬が点滴を通して患者の中に注入された。
みるみる患者の呼吸は止まっていく。
京子と渚、それに救急看護師が呆然と見つめる中、
牧は患者の顎を持ち上げて顔にマスクを当て、
右手で風船のようなバッグを揉んでいる。
「僕の挿管介助、お願いね、きょんちゃん♡」
言っている言葉の意味はわかるのに、
京子はぶわっと鳥肌が立つのを感じた。