君は大人の玩具という。
#5.夢中
そんな、花枝のオペから数日後。
例の"ご褒美"を求めて、
連日牧がオペ室に顔を出すことに
業を煮やした京子は、
渚に飲み会の企画を依頼した。
渚は見た目通り、
大のお酒好きと酒乱の女で
ちょっとばかし有名だった。
「なんで二人きりじゃないのぉ~」
「なんで二人だと思うんですか」
「あ、でも二人だと何しちゃうかわからないかも」
「だから二人じゃないですから」
ゲシュタルト崩壊が起きそうなこの会話は、
実は、牧執刀の食道裂孔ヘルニアの
手術中に行われていた。
「でもこれが終わったら飲み会だけ!
きょんちゃんの私服姿、
楽しみだなぁ」
京子は横隔膜を触る牧を
睨みつけながら鉗子を渡した。
「ほら、こうやって怒ってるけど
僕が欲しいものをちゃんとくれるの。
優しいでしょ?」
「誰に言ってるんですか」
「研修医の彼」
牧の向かいで筋鈎を把持する研修医が、
「え、僕ですか⁉」
と、突然話題を振られて驚くのも当然だ。
牧はいつも適当に人に話を振る。
それが、研修医や学生の緊張を解く
助けになっているのもまた、
気配りができていて癪なわけだが。
研修医はなぜか姿勢を正し、
改まったように言った。
「そうですね。
全然器械とかの会話はないなって
思ってました」
「だしょー?きょんちゃんはね、
僕が欲しいものを何でもくれるの」
「器械だけです」
すかさず京子が訂正する。
研修医も周りにいた学生も、
まして麻酔科医でさえも
クスッと笑みを漏らしていた。
「本当はきょんちゃんが欲しいんだけどなぁ
…イテッ!」
京子は牧が開いた手に
鉗子を思いっきり叩きつけた。
「どうぞ、ケリーです」
「…ありがとうございます」
オペは無事、終了した。