君は大人の玩具という。
スナックのママが
カラオケ付き2時間の飲み放題を
提供してくれた間、
若者は歌い、
中堅は飲み、
年配は語った。
職種を超えて
カウンターではカラオケ大会が
行われている間、
浅野、荻原、MEの増山が
ワインを酌み交わしていた。
黒のTシャツとスキニーに
ワインレッドのジャケットを着た、
これまた絶妙にセンスのない牧が
京子の隣に腰かけた。
「うわ…」
思わず心の声が漏れた京子を、
上から下まで何往復と見つめる。
「相変わらず素敵だよ、きょんちゃん。
とっても可愛いっ!」
「視線が変態なんですけど」
カラーレンズ越しでもわかる
舐めるように見る視線が
あまりにもくどかった。
「それ、その年だからまだ変態で済んでますけど
あと十年したらセクハラですよ
犯罪ですよ?」
「それって、何がだい?」
「その目もセリフも顔も全部!」
「ひどいっ
せめて顔は言わないで欲しかったっ」
牧は持っていたワインをぐっと煽る。
「なーんか酔いが回ってきたかな」
頬を赤らめ、どさくさ紛れに
もたれかかろうとするのを察して、
京子はおしぼりタオル越しに
その顔面を受け止めた。
「絶対嘘ですよね、酔ったふりですよね。
毎晩毎晩キャバクラに行ってるくせに
そんな弱いわけないですよね」
「んー?きょんちゃんに酔っちゃったみたい」
そう言ったのも束の間、
牧は強引に京子の手を掴み、
その手をどかした。
思わぬ距離感からなのか、
はたまた、
普段はぼさぼさな前髪でよく見えなかった
その綺麗な顔立ちが見えたからなのか。
薄い唇がクスッと口角を上げている。
潤んだ瞳が、妙に色気づいて見えた。
鼻と鼻が触れ合うその距離に、
何の抵抗も思い浮かばない。
「え…っ」
思わずぎゅっと目を瞑る。
その直後、
ドンッと肩に重みを感じた。
「…うそでしょ」
耳のすぐ横で、
ぐがーっと小さないびきが聞こえる。
京子はようやく我に返った。
そのいびきに続くように、
ふんわりとジンのような香水が香った。