君は大人の玩具という。
京子は渋々、牧の右隣りに立った。
牧は「挿管します」と言って
患者の口に喉頭鏡をかけ
喉の奥を見ながらチューブを入れていく。
その慣れた手つきに
京子は思わず牧の横顔を見た。
「ここかなー?」
口調はおちゃらけているが
その手技は的確だった。
「スタイレット抜いてください」
「はい」
京子がチューブの中の針金を抜くと、
牧は右手でするするっと
チューブを患者の気管に入れていった。
医師が聴診器で胸の音を聴くのに、
看護師は医師の手となって介助する。
医師が左手でチューブを抑え、
右手で空気を送り込んでいるためだ。
いつもなら拒む距離感だが、
今回ばかりは仕方あるまい。
京子は牧の耳に聴診器をかけ、
音が聞こえる面を患者の胸に当てた。
「うん、よく聞こえるね。
オッケー、ありがと、きょんちゃん」
そう言ってまたパチン☆とウインク。
至近距離のウインク、きっつ…
と思ったのが顔に出たのだろう。
渚に
「先輩、顔…」
と言われる始末だった。