君は大人の玩具という。



口角を上げてそう言うと、
今度は小さく顎を引いて目を閉じる。


「ん…」

「…え?」


京子はフリーズしかけている脳みそを
なんとか起こして聞いた。


「な、なんですか」

「これ、外して…?」


どうやら眼鏡のことを言っているらしい。

いつもなら暴言の一つでも浴びせて
蹴とばして逃げているところだが、
なぜか京子は言われるがままに
牧の眼鏡をそっと外した。


「…はい」


牧の長いまつ毛に向かってそう言うと、
ゆっくりと目が開き、
やがて視線が交わった。


「ありがと」


お酒の匂い。
雨の匂い。
牧の匂い。


「…きょんちゃん」


いつもは嫌いな呼び方。
聞きたくない声。
見たくない顔。


「逃げないの?」


それなのに、動けない。

鼻と鼻が触れそうな距離なのに、
鳥肌が立ちそうなものなのに、
有り得ないって思うのに…


「顔、赤い」


うるさいくらいに心臓が跳ねて、
身体が熱くて、
息ができない。


「逃げるなら、今のうちだよ」


うそだ。
と京子は働かない頭で思った。

逃がさない。
そう言っているようなものだ。

数々の女を落としてきたというのは、
本当だったのか。


「僕が次に何をするか、
 きょんちゃんなら、わかっちゃうよね…?」

「わ、わからな…ッ!」


言い切る前に、
勢いよく唇が塞がれた。



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