GLORIA
9月のころ

第一話 プロローグ

2020年9月下旬。秋の入り口のような季節の変わり目。



月の光。



電灯の灯り。



高々15回目の季節。



中学3年生とは高校受験に向け、学校の人間関係も新たになりやすい。



支倉ハイムは、東京都長空市にある長空第一中学に通う3年生だ。夏に部活動(女子バレー部)を引退した。気持ちを受験勉強に切り替えながら、自宅から自転車で通える距離の個別指導塾に通っていた。



志望校は進学校・長空北高校。



個別指導塾とは、生徒二人に講師一人というタイプだ。ハイムは、同じ志望校の北条セナという女子生徒と一緒に講座を受けている。



ある夜。

講座が終わって、多くの生徒が帰り足で騒がしい中、少し居残って補習を受けた二人。ガヤガヤする教室内で熱心に講師の話を聴いた。これからの季節が本番同然の勝負だと言う。学校の定期テストも、公開模試も全力で挑まなければならない。



やがて静寂に包まれた教室で漸く帰り足になった二人は、塾の講師達に挨拶をして、入り口を出た。



駐輪場にある自転車の鍵を、



ガシャン…!



と外すと、お互いに顔を見合わせた。

他の生徒達がすっかり出払って、静かな駐輪場で、思ったより大きな音が出て、夜の静けさの中に響き渡った。



暑さと寒さが入れ替わるこの季節の夜長。



月の光。



電灯の灯り。



二人は顔を見合わせて微笑む。夏が来る前は、そこまで親しくなかったハイムとセナ。二人の顔が良く見える駐輪場で、夏期講習から友達の二人は日に日に間柄が強固になる。学校では同じクラスの二人は、志望校を同じくして仲が良く、来週に迫った9月の公開模試も同じ会場で一緒に受験する。



ハイムがセナの顔をジッと見ていると、セナは、



「疲れましたな~!」



と言って笑った。セナのショートカットが揺れて、ニカッとした表情。



ハイムは、



「家に帰ったら少し復習しないと…はぁ~しんどいね…」



と言う。ハイムのツインテールが揺れて、憂鬱な表情。



「あぁ~…ご飯食べて寝たい!」



自転車に跨って颯爽と夜道を走る二人。



ハイムには人間関係の悩みがあった。学校のクラスの人間関係で秘かに悩みを抱えていた。それをいつかセナに聞いて欲しかった。



会話が転がり、ライトが揺れながら、ペダルを押す脚の力をそっと緩めたハイムは、

「塾の無い日も一緒に勉強しようよ」

と言った。



セナが、ハイムの方を振り返って、

「いいよ~!」

と笑った。



ハイムは先天的な髪色で銀髪だった。

ツインテールの似合う女の子だった。

優等生で容姿もそれなりに人気だった。

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