GLORIA


その日の昼休みに、ハイムはよしとに話しかけた。



「穂谷野君って男子にどう思われているの?いじめに遭っているの?」



「穂谷野はイイヤツだからからかわれているけれど、50m走は6秒9の俊足だ、見た目のイメージがあるから知らない人もいるけどね…」



「ん~?前田君はなんで知っているの?」



よしとは、

「5月のスポーツテストの結果を念入りにチェックした」

と答えた。やはり成績優秀者らしく数字や調査には強かった。



「じゃあ!前田君が熊谷君に頼んでリレーの選手にしてよ!」



よしとは、



「そうだな!勝ちたいもんな!」



と言って、早速女子と戯れる熊谷の元に行った。そして数字通りに穂谷野を選手にするように言った。



「熊さん!穂谷野がああ見えて足速いから!」



熊谷は、やはり何かが気に入らなかったのか、席を立ちあがると、



「穂谷野と柔道して決める!俺も大外刈りを試す!」



といきり立って叫んだ。



「よしとはアレな…日本国憲法の世界だからな…」



熊谷はまた悪ふざけの口調でそう言うと、よしとの横をすり抜けて廊下に出て行った。



ハイムはヘラヘラした熊谷の顔をギョロッとした眼で見ながら、一歩二歩後ずさって、廊下に出て行くのを見送った。



熊谷は廊下に穂谷野がいないか探した。



そしてすぐ戻って来て、



「穂谷野いねぇから選手でいいや…肝心な時にいない時点で『持っている』」



と言った。よく意味のわからない日本語だったが熊谷なりに正々堂々と選手を選びたいと思ってはいるようだった。



「よしとは穂谷野が好きなアイドルも調査しておいてください!」



熊谷は本当に穂谷野をリレーの選手に選んだ。5人いる選手のうち残り2名も正しく数字で選んだ。



ハイムはその日の放課後、穂谷野に、



「穂谷野君!アイドル好きだったんだね!あとリレーの選手だよ!頑張ってね!」



と言った。



穂谷野は突然の出来事に、



「あ…うん…!うん!頑張るよ!」



と精一杯の気持ちで答えた。



よしとは、穂谷野と戯れるようなハイムを見て、可愛いなと思った。



ハイムはその日の夕方に個別指導塾に行って、授業を受けた。



「体育祭の前に模擬試験があるから頑張らないとね」



とセナに言った。模試はこの週末だった、セナの親が会場まで車で送ると言っているようだった。支倉家は御厚意に甘えて送迎して貰う事にした。
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