GLORIA
次の日の学校。
ハイムが悩んでいた人間関係とは同じクラスの男子の事だった。背が高く、勉強もスポーツも熱心に取り組んで、志望校は同じ長空北高校の前田よしと。
よしとは、
「支倉~!」
と馴れ馴れしく呼び捨てにするのだ。
春、4月も中頃からそうなのだが。近頃、ハイムは特に気になりだしたのだった。以前に増して馴れ馴れしくなったように思えて。よしとの肩越しに見える顔も段々大人になっていく。身長も伸びて。
ハイムは、
「前田君。受験勉強は順調かな…?」
と言う。
「もちろん!バッチリですよ!」
よしとは自信満々に言う。実際は不安に打ち震えているのだが、吹き飛ばすように自信満々な口調で言うのだ。その豪快なフルスイングがハイムも心地よかった。ハイムの方が成績が良い為だ。
ハイムは、ニッコリ笑って、
「よかったね!」
と言ってあげられるのだった。
セナはよしとと中学1年生から同じクラスで、お互いよく話した。
セナは、
「前田~!英単語覚えなくていいのか~!」
とからかう。
よしとは、英単語を覚えるのがマイブームだった。セナは「勉強していろ!」と言い、ハイムからよしとを追い払うように引き離す。そしてハイムとセナで仲良さそうに会話を続けるのだった。
よしとの、ノッシノッシとした足取りが教室の後ろの席に戻って行く。そして男子達の輪に混じっていく。その揺れる身体の背中をハイムはジッと眺めていた。
セナが、
「どうしたの?」
と聞くと、ハイムは、
「…なんでもないよ」
と首を横にフルフルと降った。ハイムのツインテールが揺れた。
ハイムは自分の右手を広げて、手の甲を上にしてみた。小さいかもしれないと思って、セナと比べてみた。
「どうした~?」
「セナの手の方が少し大きいね…」
「ああ!そうだね!」
ハイムは、ウフフフと笑うと、また勉強の話や、息抜きに見たYoutube動画の話をした。この日からハイムとセナは一緒に勉強をするようになったのだが、ハイムは人間関係の事、どこか自分に馴れ馴れしいよしとについて、悩みを言い出せずにいた。セナにとって、よしとは慣れ親しんだ存在だから、諸々の疑問が無くハイムの悩みに気が付かなかった。
ハイムがまたチラッとよしとの方を見ると、男子達と仲良さそうな横顔が見えた。よしとは男子バレー部でセッターという司令塔のポジションだった。高校でもバレーボールを続けると言う。
ハイムは「前田君が長空北高校に受かったら、高校も一緒なんだよなぁ」と思った。また馴れ馴れしく「支倉」と呼ばれる時間が続くのかなと思うと、ちょっとだけ胸がチクりとした。
男の子を好きになる事なんて無かったし、そういう感情とは無縁の思春期をまっとうするのだと思っていたけれど。前田君は私をどう思っているのだろう。
そんな悩みを抱えていた。