GLORIA
食べる時刻が近づくと配膳を済ませた男子の集団がガヤガヤと騒がしくなった。その騒音の中に前田よしとの声が混じっていた。
ハイムは急に静かになった。
前田よしとの声が聴こえて来た。
よしとは班の男子達と雑談をしていて、ハイムに話しかけた訳ではないのだが。ハイムはよしとの声が聴こえると急に大人しくなって、また独りで給食を眺めた。
「支倉さん。バナナは好きですか?」
「…え?」
「バナナ好きですか?」
「…うん」
「聞いただけ!」
ハイムは「あははは!」と笑って、また雑談を始めた。
「穂谷野君はチーズタッカルビが辛くても平気なんだね!うんと辛かったらあげるね!」
「ありがとう!」
「バナナはあげないよ~?」
「大丈夫!」
ハイムはまた「あははは!」と笑った。
穂谷野は剣道部だったが、よく柔道部と間違われる男子だった。それから周辺の生徒達を交えて楽しく談笑した。あと半年程このクラスの友達と中学校生活を送る。皆、爽やかな笑顔だ。
するとまた、よしとの声が聴こえて来た。昨日見たテレビ番組の芸能人の真似をしている。「前田はそんな時間にテレビを見ているのかよ」と聴こえてくる。「こいつ勉強できるのにふざけてるよな」と言われているのが聴こえてくる。
よしとが通っている塾は長空駅前の集団授業塾だ。長空北高校への合格実績も良い。よしと自体も定期テストの学年順位が一桁だし、おそらく合格するのだろう。
「支倉さんは学年1位だっけ?前田君も頭いいけど…」
「…うん」
「前田君と同じ長空北高校でいいの?」
「…う~ん」
「あ…ごめん。楽しい給食の時間に…」
「…いいよ穂谷野君。穂谷野君も勉強頑張ってね」
そして食べる時刻になった。
ハイムはバナナから食べた。
チーズタッカルビは適度な辛さだった。
穂谷野は秘かにハイムの事が好きだった。勉強が出来て、大人だなと思って。好きと言っても、心臓が口から出るような感覚の高揚というよりは、むしろ穏やかな熱の自家発電だった。給食を眺めるハイムを眺めて心を癒していた。一足早く冬服を着始めたハイムが可愛い。
午後の授業は技術家庭科だ。この時期はプログラミングの授業だ。席が近いため一緒に作業する事もある。
「支倉さん。プログラミングが上手く行くといいね」
「えぇ~?」
「午後のプログラミング」
「そうだね!」
「いつも黙々と作業しているけど、たまにわからなくなるじゃん…」
「…うん」
「あ、ごめんね。お節介…」
「穂谷野君。ありがとう!」