GLORIA
討論が終わると、担当の技術家庭科の先生が、
「何か疑問に思った事がある者はいるかな?」
と言った。
よしとが、スッと手を伸ばして、
「実際に開発の仕事をしている人もこのようなシミュレータで研究しているのですか?」
と質問した。
先生は、
「良い質問だなぁ~!このソフトウェアは教育用だなぁ~!」
と苦笑いだった。
そしてベルが鳴り、プログラミング実習は終わった。
授業が終わると6限目の数学を受ける為に、また教室に戻る。
廊下で、セナはハイムに、
「真面目にやると凄く疲れる授業だったな~!」
と言った。
ハイムは、
「コンピュータは難しいよね…」
と言って笑った。
その前方を、よしとがノッシノッシと歩いていた。友達を横に並べて廊下を歩く背中が揺れている。
ハイムは、少し小走りにタタタタと歩くと、よしとに、
「前田君!頑張ってたね!先生に質問して真面目だね!」
と言った。
よしとは、クルッと振り返ると、
「内申点狙いとか言われますか?」
と、どこか頓珍漢な事を言って来たのだった。
ハイムは、
「違うよ~!」
と言うと、セナが駆け寄って来て、
「前田!お前が謎だってハイムが気にしてたぞ!」
と言い浴びせた。
よしとは「さいですか」という顔をして、
「う~ん…もっと成績良くなりたいです…」
と言った。
ハイムは「それで話しかけて来るようになったんだな」と思った。
穂谷野は一部始終を後ろから眺めて「支倉さんは勉強の出来る人のグループなんだなぁ」と思った。穂谷野は熱心に取り組んでいた剣道部を引退して、受験生に成るや否や、勉強の出来る、出来ないという価値尺度に放り込まれたものの、不満も無く、またひたむきに努力できる性分だった。
穂谷野は思い切って、割り込むようによしとに話しかけた。
「前田君は男子バレーボール部の活動も頑張っていたよね…勉強も出来るなんて羨ましいな…」
よしとは、笑って、
「からかわないでくれ」
と言う。
「からかってないよ」
「そっか!それ最近言われるようになったんだ!」
よしとが司令塔(セッター)を務めた男子バレー部は夏の都大会で抜群の成績だった。途中で敗れて全国大会出場は至らなかったが。
「バレーボールは高校でも絶対続けるからな!」
よしとが自信満々にそう言うと、穂谷野は笑顔になった。穂谷野は「支倉さんは、前田君みたいに文武両道の人が好きなのかな」と思った。
ハイムは、よしとの事がなんとなくわかったのだった。