恋をするなら俺として?
「山下さん何買いに来たの?」
「リップクリームを選びに……」
「一緒に見てもいい?」

 これはどういう展開なんだろうと思いながらも、断る理由がない私は一ノ瀬くんと店内を歩く。
 ずらりと陳列されているリップクリームを見つけたものの、その数と種類に眩暈がした。
 
「いつものとか決まってるの?」
「ううん……私、こういうの無頓着すぎてどれにしようかと」
「そうなんだ。じゃあ、俺が選ぼうか?」

 やはり謎の展開である。
 けれど、一ノ瀬くんの唇は潤っていてきれいだし、肌や髪の美しさだって女子が羨むほどだ。
 そもそもコスメコーナーにいたのも、興味があるからなのかもしれない。
 
「もしかして、一ノ瀬くん詳しかったりする?」

 何の気なしに訊ねると、一ノ瀬くんは一瞬「あ……」と言葉を詰まらせたあと苦笑した。

「好きなんだよね……」
「美容男子、みたいな?」
「うーん……いや、外れてもいないけど、それとはちょっと違うかな……」

 私は一ノ瀬くんを困らせてしまっている。
 
 彼の言葉選びが慎重になっているのを感じて、私は自分のうっかり質問をなかったことにしたい気持ちでいっぱいだった。
 けれど一ノ瀬くんは「誰にも言わないで欲しいんだけど」と前置きをして、つづける。
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