恋をするなら俺として?

リップクリームのひみつ

 成り行きとはいえ異性にプレゼントしてもらうなんて人生初である。
 帰ってから買ってもらったリップクリームを開封して唇に塗ると、まるで『ファーストキスでもして来ましたか?』くらい照れてしまった私はひとりベッドの上で悶絶した。

 リップクリームを受け取るときに改めて、一ノ瀬くんの夢を秘密にすることを約束。
 そして、出来れば今後コスメコーナーを見て歩くのを付き合って欲しいと言われて、予定が合うときにはドラッグストアで会うことになっている。
 そのためにもと連絡先を交換した。

 まるでお付き合いでもはじめるみたいだと思ってしまうが勘違いはよくない。

 コスメをじっくり見て歩くには、男一人というのはどうしても目立ってしまうし、話し相手がいてくれたほうが嬉しいらしい。
 私も、女子力を上げるべく色々教えてもらえるならばとまさにウィンウィンの関係だ。
 
 学校でも目立たないよう、今までどおり特に接点を持つことなく過ごす約束もした。
 だから翌日の学校で何も変わらない関係性を保っていると、きのうのことが幻のようにも思える。
 
 けれど制服のポケットに忍ばせたリップクリームは、確かに一ノ瀬くんにプレゼントしてもらったものだ。
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