拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~
「クリス! 女の子にそんなことを言っちゃだめでしょう!」

「女の子、ねえ……」

 エステル様によく似た銀髪に、つり目がちな青い瞳。その目が値踏みするように私を見た。

 クリス――クリストファー=ラザフォードは、美丈夫として名高い。なんでも、ご令嬢方からは“白銀の貴公子”だなんて呼ばれているらしい。夜会では、ちらりとその顔を向けるだけで黄色い歓声が上がるという噂。私だって一ミリもときめかないと言えば嘘になる。

 きっとこの男に見つめられて頬を染める女性は山のようにいるのだろう。クリスはお手上げとばかりに大きく肩をすくめてみせた。

 クリスは昔あんなに小柄だったのに、今では私よりも背が高い。それにびっくりするほど顔が小さくて足が長い。舞台俳優だと言われても通るレベルだ。先日うっかり隣に立ってしまったら腰の位置が違いすぎて絶望した。

 ただ、母親同士の仲が良かったおかげで物心ついた時から間近で育ったから、一定の免疫はある。少なくとも、見つめ合っても奇声を挙げたりしない程度には。

「もう! いつからうちの子はこんな風になっちゃったのかしら」

 持てる長所を全て顔につぎ込んでしまったのか、クリスはちょっとばかし口が悪い。なんてことはない。貴公子だなんだともてはやされていても、実情はこんなものである。

 黙っていればこの容貌だし、これでも彼は侯爵家のご嫡男であらせられるので、政略結婚の相手としては最高位の部類に入るだろうに。残念なことだ。

「とにかく、キャロは文通をしましょう! そして運命の相手を手に入れるのよ!!」

 「ロマンより運命より、現実をちゃんと見た方がいいと、おれは思うけど」

 しかしながら、彼の言うことにも一理ある。

 そして現実を見たところで現れるのは、ただの地味な行き遅れの私だ。
 そんなことは四つ年下の幼馴染に突き付けられるまでもなく、ちゃんと分かっている。
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