拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~
第十章:君の知らない物語
例えるならば、彼女は僕にとって、“窓”だった。
明るい陽射しが差して、さわやかな風が入り込んでくる。そんな窓だ。
自分が閉じた人間だということには、早々に気づいていた。
一人でいることが全く苦にならない、むしろ誰かといることが苦痛になるタイプだ。
両親もおおらかな人なので(母に関してはおおらかを通り越していると時々思うけれど)、僕はのびのびと孤独を満喫していた。
そんな時に、キャロラインは僕の前に現れた。
いくら母親同士が仲が良くても、その子供まで仲がいいだなんて限らないのに。けれど、それだけの理由で母はスタインズ家の人々をうちの別荘に呼んだのだ。
記憶力には自信がある方だ。だから、僕はキャロラインとはじめて会った日のことを昨日のことのように思い出すことができる。
明るめの茶髪に、白くてやわらかそうな頬。丸めの顔立ちの真ん中で、二つの紫の目が輝いていた。
『ねえ、名前。なんていうの?』
くるくるとよく変わる表情に、僕はすぐさま釘付けになった。
『私はキャロラインっていうの』
『僕は、クリストファー』
『じゃあ、クリスって呼ぶね』
まるでそこだけきらきらと光が当たっているように、眩しかった。
小さい頃、僕はあまり体が丈夫ではなかった。
キャロラインは、ほとんど引きこもりのように過ごす僕のそばにぴたりと寄り添うようにしてくれた。
『クリスは本当に、絵が上手だね』
別に取り立てて絵が好きだというわけではない。
ベッドの上でできるようなことが、それぐらいしかなかっただけだ。
家にある本は早々に全て読んでしまって飽きていた。それに、彼女が手放し言うほどは上手くはないと思う。
けれど、絵が描けてよかったと思う。僕のこの目に映った世界を、ずっと紙の上に留めておくことができるのだから。
体調がいい日が増えてくると、キャロラインは僕の手を引いて外へと連れ出してくれた。
彼女を通して見た世界は、とてもきれいだった。
何度も見た湖も、なんてことない木漏れ日も。
キャロラインがいれば、全て特別に見えた。
彼女がいなければ、僕は今もずっと暗い部屋の隅にいただろう。それを疑問にさえ思わなかったはずだ。
好きになるのは、当然だった。
だってキャロラインがいてくれたから、僕はこの世の美しさを知ることができたのだから。
今更もう、彼女のいない世界なんて考えることもできなかった。
そしてそれがこれからもずっと続くのだと、僕は信じていた。
明るい陽射しが差して、さわやかな風が入り込んでくる。そんな窓だ。
自分が閉じた人間だということには、早々に気づいていた。
一人でいることが全く苦にならない、むしろ誰かといることが苦痛になるタイプだ。
両親もおおらかな人なので(母に関してはおおらかを通り越していると時々思うけれど)、僕はのびのびと孤独を満喫していた。
そんな時に、キャロラインは僕の前に現れた。
いくら母親同士が仲が良くても、その子供まで仲がいいだなんて限らないのに。けれど、それだけの理由で母はスタインズ家の人々をうちの別荘に呼んだのだ。
記憶力には自信がある方だ。だから、僕はキャロラインとはじめて会った日のことを昨日のことのように思い出すことができる。
明るめの茶髪に、白くてやわらかそうな頬。丸めの顔立ちの真ん中で、二つの紫の目が輝いていた。
『ねえ、名前。なんていうの?』
くるくるとよく変わる表情に、僕はすぐさま釘付けになった。
『私はキャロラインっていうの』
『僕は、クリストファー』
『じゃあ、クリスって呼ぶね』
まるでそこだけきらきらと光が当たっているように、眩しかった。
小さい頃、僕はあまり体が丈夫ではなかった。
キャロラインは、ほとんど引きこもりのように過ごす僕のそばにぴたりと寄り添うようにしてくれた。
『クリスは本当に、絵が上手だね』
別に取り立てて絵が好きだというわけではない。
ベッドの上でできるようなことが、それぐらいしかなかっただけだ。
家にある本は早々に全て読んでしまって飽きていた。それに、彼女が手放し言うほどは上手くはないと思う。
けれど、絵が描けてよかったと思う。僕のこの目に映った世界を、ずっと紙の上に留めておくことができるのだから。
体調がいい日が増えてくると、キャロラインは僕の手を引いて外へと連れ出してくれた。
彼女を通して見た世界は、とてもきれいだった。
何度も見た湖も、なんてことない木漏れ日も。
キャロラインがいれば、全て特別に見えた。
彼女がいなければ、僕は今もずっと暗い部屋の隅にいただろう。それを疑問にさえ思わなかったはずだ。
好きになるのは、当然だった。
だってキャロラインがいてくれたから、僕はこの世の美しさを知ることができたのだから。
今更もう、彼女のいない世界なんて考えることもできなかった。
そしてそれがこれからもずっと続くのだと、僕は信じていた。