一夏夕涼み
「ねぇ!君!」
少女は足を止め不思議そうにこちらを振り返っている。
波の音と自分の心臓の鼓動の音が静寂の砂浜に響いている。
あぁ思い切って声かけちゃったけど何話せば良いんだ!!
あんまり可愛いから声かけましたなんて言えるわけねぇし!
クソもっと自然な感じで、自然な感じで、こっちの緊張を悟られない様に、さりげなく。
「あ、あの君学校じゃ見かけたことないけれど」
これが俺の精一杯だよ、普段こんな場面に出くわすことなんてないんだ、浦戸の奴らは大体ガキの頃からの顔見知りなんだよ!
「あぁ、そう私この一夏を浦戸に休暇にきたの」
「へぇー休暇に、そりゃいいや海以外何にもない場所だけど」
「うん、ほんと何にもないね」
彼女が一つため息をついてプット笑った。
「なんだよ、とんだ田舎にきちまったってか」
「ぷっ、うんん、本当になんにもない、空を覆う灰色のビルも、道路を覆う車の川も、道をゆく人の波も」
彼女のその言い方は、うんざりする所から逃げられて安心したような表情をしていた。
「都会っ子か、何処からきたの?」
「東京」
「東京か、俺にとったらまるで別の国も様に感じるな」
「私にだってこんな四国の端なんて、世界の果てみたいに感じるわよ」
「あははそうかよ、ようこそ世界の果てへ、東寺大志だよろしく」
「足立文香よ」
文香はさっと手首の裏側につけた腕時計に目をやると。
「私そろそろ帰らなきゃ、またね大志くん」
そう言うと文香は消えてしまった。
大志はしばらくその場で立ち尽くしていた。
この俺があんな可愛い子と知り合いになれえるなんて!有頂天になりそうな気持ちを抑えるために海に向かって思い行きり叫んでみたりもした。