一夏夕涼み
10 章
俺はしばらく海に向かって言葉になっていない言葉を叫んでいた。
東京から来た女の子と知り合いになれて、有頂天になっていたのは確かだけれど、何かこれから先素晴らしいことが起こりそうな予感を前に気持ちが昂っていたんだ。
わかってる、わかってる、期待をすればする程、期待が外れた時酷く傷ついてしまう、これまで何度も経験してきたじゃないか、だからこんな時は自分にこう言い聞かせてきたんだ。
「期待するな大志、傷つきたくないなら、はじめから期待しなければ傷つくことなんてこれっぽちもないんだから」
けれど今日だけは、この夕暮れだけはそんなことを忘れる様にただ海に向かって叫んで、俺が時々する喜びの舞を踊った。
喜びの舞ってのは俺が嬉しい時とか、勇気を奮い立たす時に踊る。
親友の直樹と拓弥と俺の3人で小学校の帰り道、ヒョンなノリで作ったこの舞は今でも呪いの様にやっている。
「ウォー!オッ!オッ!オッ!ゐ!お茶!」
この意味のわからない言葉を、独特のリズムでステップを踏みながら、両手を頭の上で叩く。これを気の済むまでやる、これが喜びの舞だ。
しばらく俺は喜びの舞を踊った。
「はぁーやっぱりこれだよな、喜びの舞、よし帰るか!」