一夏夕涼み
言い忘れたけれどここにいるみんな、俺と文香以外は酒豪だ。ほんとこんな日には日本酒の一升瓶なんか平気で開けるし、ビールも1ダースは軽くなくなる。
小松のおばさんは自分でグラスに注いだビールを飲みながら話し始めた。
「そう、そうなの、ここはうちと真帆の地元、けれど真帆は高校を出る時に上京してそれっきり、実家には顔だしてなかったのよね、ほんと十何年ここで一緒に過ごしたことやら、真帆がやっと帰って来るってすごく嬉しかったの覚ええてるわ、しかも可愛い赤ん坊連れてさ」
小松のおばさんが泣いている!珍しい。
「そうよ、私たちもちっちゃい頃の文香ちゃんに会ってるのよ、その頃ちょうど大志が生まれて、あっ、だから大志もちっちゃい頃に文香ちゃんに一度会っているのよ!」
母さんと小松のおばさんの会話を聞いた時、驚きとか驚愕みたいな感情は浮かばなかった。
生まれて直ぐ、お互い言葉も知らないうちに俺と文香は出会っている。
「そりゃそんなこともあるよな、通りで初めて会った気がしないわけだ」
俺は独り言の様に呟いて一人でこのことに納得していた。
「やっぱり大志くんって変わってる、ほんと」
文香はケラケラ笑ってよっぽどおかしかったのか、しばらくむせこんでいた。
自分でもキザなセリフってことはわかるけれど、本当に素直に思ったことを口にだしただけだ、何も恥ずかしくないだけれど。
その晩の晩酌は夜中まで行われた、まぁ俺は酒は飲めないから早々切り上げて部屋に戻ろうとするとスマホが鳴った。直輝からだった。
「大志、起きてるか?またあれやりに行こうぜ」
「直輝はいつも電話がしらに起きてるか?」と聞く、起きてなかったら電話に取れないから起きてるに決まっているのだけれど。
直輝や拓弥からの電話には出られないことが多い、と言うか出ないことが多い、理由はまぁアイディアだしとか作業中ってのがほとんで、集中するために携帯の電源を切ってるからだけれど。
「あぁ起きてるぞあれって今からやんのか?」
「そうだよお前のために桜ちゃんも来てるぞ」
「いやちょっと今日は家にお客さんが」
「まぁまぁいいじゃねーか、もう大志の家の前に着いてるし、早く出てこいよ!」
電話が切られて窓を外を見ると直輝と目が合う、本当に拓弥と桜も来ている、俺は頭を抱えた。
「まったく」
ノートを開きかけていたと言うのに、せっかく作業を始めようとしていたと言うのに、、、
まぁいいかちょっとくらい、、、
一階に降りて玄関に行こうとする時、トイレから文香が出てきた。