一夏夕涼み
桂浜の砂を焚き火にかけるとあっという間に火は消えた、風に火の粉が攫われて行く。
「火を起こすのにはそれなりに苦労したのに、消えてしまうのはこんなに呆気ないんだね」
文香は感傷的な表情で言う。
「そうだね、もしかしたら人生もそんなものかもしれない」
俺が呟くと直輝が肩をゴツく。
「ったく大志のくせにしっぽりしてんじゃねーよ!ほらスーパー行こうぜ」
「ほらいこっ文香ちゃん、きっとそんな風な人生だったら素敵だよ」
国道沿いのスーパーに俺たちは向かった、夜が深まって行く。
ピークの時間が過ぎたスーパーはがらんとしていた、浦戸のヤンキーたちが店の前でたむろしている。
うるさい奴らだがそんなに悪い奴らじゃないんだけれど、文香は完全にビビってしまっている。
買い物を終えて一杯の袋を二つも抱えて店を出た。
そして案の定ヤンキー達が絡んできた。
「おい大志じゃねーか、何してんだよ」
ヤンキー達のリーダー的存在の智が声をかけてきた。
「よっす智くん、今日は浦戸にきた従姉妹に桂浜を案内していたとこ、これからみんなで俺の家で映画見るんだ」
智はバイクに跨りながらエンジンを吹かす、爆発みたいな音が鳴り響く。
「智もうちょっと静かにしてよ、文香が怖がってるよ」
「全くよ、また今度は俺たちにも付き合えよ!」
智はめちゃくちゃな奴だけれど、俺にとってめちゃくちゃいいやつだ、ヤンキーとかバイクに乗ってるなんて偏見はこれっぽっちも無い。
「ほら後ろに乗れよ、みんな大志の家に行くんだろ?」
智の仲間達もバイクの後ろに乗る様に勧める、桜と文香にもヤンキーのねーちゃんの後ろに乗せてもらった。
「準備できたなそしたら行くぞ」
智のバイクが走りだした、夜風が気持ちいい、法定速度なんて気にせずぶっ飛ばしながら進んでいく。
「おい大志あの子本当は従姉妹なんかじゃ無いんだろ?」
「なんでわかったんだよ智くん」
「まぁ見りゃなんとなくな、上手くやれよな」
「うるさいなぁー」
爆音を奏でながらバイクは疾走していった。
「ほら着いたぞ」
バイクは住宅街の家の前についた、智に家に送ってもうことはよくあったけれど、こんなに派手なバイク10台が家の前にあるのは目立ちすぎなので礼を言ってさっさと帰って貰った。
「こんなこと始めてだわ、バイクの後ろにヘルメットも付けずに乗ったことなんてさ」
文香が呟くと桜が「プッ」と笑った。
「東京でこんなことやった一発で警察のお世話よ」
ヤンキー達と別れを告げて俺はみんなを家にあげた。
「なんか久しぶりだなー大志の家に来るの」
直輝たちはガヤガヤと家に上がり既に晩酌会で出来上がってる親と小松さんに挨拶をして俺の部屋に案内した。
「ちょっと待ってくれよ、今プロジェクターセットするからよ」
「あーこれこれ本当大志の部屋は居心地いいな」
直輝と拓也はこれこれと満足そうに俺のベッドに腰掛けた。