すすかけの木陰で
「大丈夫?」彼は聞いた。お兄さんは、その流れで、本を拾うのを手伝ってくれた。無精髭を生やし、老成した雰囲気の彼は、大学院生さんか、もしかしたら博士課程の人かもしれない。私が落とした本の中にあった、ヘッセの『デミアン』をみつけて、彼は、涼しい目を潤ませながら神妙な表情で何かを考えているようだった。そうしてどこかわからない、不思議な世界に浸っているかのように、ぼーっと固まってしまった。
「あ、ありがとうございます」
「ビテ」ドイツ語だろうか?彼はそのまま、急にぷいとあちらを向いて、行ってしまった。
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