早河シリーズ第四幕【紫陽花】
「……あなたの気持ち、私にはわかるよ。私もあなたと同じ事を思った経験がある」
乃愛を威嚇し続ける真紀が優しく語りかける。乃愛は早河から真紀に視線を移した。
「好きな人が振り向いてくれないのは辛いよね。心は手に入らなくても彼の側にいたい気持ちわかるよ。でもね、心がないと虚しいだけよ。好きな人が想っている人は自分ではないと思い知って傷付くだけ。何も手に入れることはできないの」
乃愛を諭す真紀を矢野は見つめる。真紀が思い浮かべている人物を思い出して、矢野も心が痛んだ。
「何も手に入れることはできない……」
真紀の言葉を繰り返した乃愛の瞳から涙が落ちる。力無く下げた手から拳銃が滑り落ちて地面に落下した。
威嚇を解いた真紀が乃愛に手錠をかける。
『おっと。津田さん。どこに行くのかな』
『逃がしませんよー』
腰を抜かしていた津田は逃げ出そうとしたところを早河と矢野に挟み撃ちにされ、無謀にも早河に向かっていった津田の腹部に早河の拳が命中して津田は呆気なく倒された。
*
真紀は上司の上野警部に報告の連絡をしている。手錠をかけられてベンチにおとなしく座る乃愛に早河が近付いた。
『聞きたいことがあるんだ。この計画は君がひとりで立てたのか?』
早河を見上げる乃愛は答えるのを迷っているのか目を泳がせている。早河は屈んでベンチにいる乃愛と目線を合わせた。
『拳銃もどうやって入手した? 君がひとりでこの計画を立てたとは思えない。津田や平井以外にも協力者がいるんじゃないか?』
「……ファントム」
乃愛はガストンルルーが書いた有名なゴシック小説に登場する怪人の名前を呟いた。早河の疑念が膨らみを増す。
「この計画はファントムに与えられたの。拳銃もファントムが用意してくれた」
『ファントムとは誰だ?』
「知らない。会ったことないし……やりとりは電話とメールだけだから」
これ以上聞いても無駄だと判断した早河は乃愛に礼を言って彼女から離れる。話を聞いていた矢野が早河に耳打ちした。
『早河さん、まさかこの事件……』
『ああ。まさかのカオスのご登場かもしれない』
水滴が額に落ちた。見上げた暗い夜空からパラパラと雨が降ってくる。
『……嫌な予感がするな』
雨脚は少しずつ強くなり、立ち尽くす彼らを容赦なく濡らした。
乃愛を威嚇し続ける真紀が優しく語りかける。乃愛は早河から真紀に視線を移した。
「好きな人が振り向いてくれないのは辛いよね。心は手に入らなくても彼の側にいたい気持ちわかるよ。でもね、心がないと虚しいだけよ。好きな人が想っている人は自分ではないと思い知って傷付くだけ。何も手に入れることはできないの」
乃愛を諭す真紀を矢野は見つめる。真紀が思い浮かべている人物を思い出して、矢野も心が痛んだ。
「何も手に入れることはできない……」
真紀の言葉を繰り返した乃愛の瞳から涙が落ちる。力無く下げた手から拳銃が滑り落ちて地面に落下した。
威嚇を解いた真紀が乃愛に手錠をかける。
『おっと。津田さん。どこに行くのかな』
『逃がしませんよー』
腰を抜かしていた津田は逃げ出そうとしたところを早河と矢野に挟み撃ちにされ、無謀にも早河に向かっていった津田の腹部に早河の拳が命中して津田は呆気なく倒された。
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真紀は上司の上野警部に報告の連絡をしている。手錠をかけられてベンチにおとなしく座る乃愛に早河が近付いた。
『聞きたいことがあるんだ。この計画は君がひとりで立てたのか?』
早河を見上げる乃愛は答えるのを迷っているのか目を泳がせている。早河は屈んでベンチにいる乃愛と目線を合わせた。
『拳銃もどうやって入手した? 君がひとりでこの計画を立てたとは思えない。津田や平井以外にも協力者がいるんじゃないか?』
「……ファントム」
乃愛はガストンルルーが書いた有名なゴシック小説に登場する怪人の名前を呟いた。早河の疑念が膨らみを増す。
「この計画はファントムに与えられたの。拳銃もファントムが用意してくれた」
『ファントムとは誰だ?』
「知らない。会ったことないし……やりとりは電話とメールだけだから」
これ以上聞いても無駄だと判断した早河は乃愛に礼を言って彼女から離れる。話を聞いていた矢野が早河に耳打ちした。
『早河さん、まさかこの事件……』
『ああ。まさかのカオスのご登場かもしれない』
水滴が額に落ちた。見上げた暗い夜空からパラパラと雨が降ってくる。
『……嫌な予感がするな』
雨脚は少しずつ強くなり、立ち尽くす彼らを容赦なく濡らした。