早河シリーズ第四幕【紫陽花】
雨が降り続いている。この季節は毎日、毎日、飽きもせずによく降るものだ。
タワーマンション二十三階の玲夏の部屋でなぎさは早河からの連絡を待っていた。今日最後の仕事を終えて玲夏のマンションに帰って来たのが1時間前。
速水杏里から事の真相を聞き出した早河は黒幕のもとに向かった。すべてが終わったら連絡するとのことだったが、まだ彼から連絡はない。
テーブルの上に置かれたなぎさの携帯電話が着信を告げた。着信表示は早河の名前だ。高まる緊張、通話ボタンを押す手も強張っていた。
早河からの電話を受けて要件を聞き終えた彼女は大きく息を吐いた。同じ部屋にいる玲夏は窓辺に立って雨空を見ている。
「沢木乃愛が逮捕されました。玲夏さんへの嫌がらせも、平井の殺害も認めているようです」
「……そう。乃愛ちゃんが……」
彼女はそれだけしか答えない。今の玲夏が何を考えているのか、なぎさにはわからない。でも乃愛の逮捕にショックを受けていることは間違いない。
ソファーに腰を降ろした玲夏は紅茶のカップに手を伸ばす。ぬるくなった紅茶を一口飲んだ彼女は視線を上げた。
「なぎさちゃん。ありがとうね。神戸ロケの時はあなたがいてくれて心強かった」
「私は何も……。潜入調査が無事にできたのは矢野さんのおかげです。結局、私は何のお役にも立てませんでした」
「そんなことないよ。沙織がいない間も付き人の仕事をこなしてくれたし、あなたの働きが仁の推理の手助けになったのよ。なぎさちゃんは自分が思うよりもずっと、人の役に立ってる」
気落ちしているのは明らかに玲夏の方だ。けれど彼女はこの状況を受け止めて前を向き、なぎさを気遣っている。
(私が玲夏さんを気遣わないといけないのに……玲夏さんには敵わないなぁ)
もしも早河と玲夏が復縁してしまえば、自分の入り込む隙はない。玲夏はとても、素敵な人だから。
「なぎさちゃんは仁のことが好きなんでしょう?」
「えっ……」
「なんとなくね、そうなのかなぁって。違う?」
隠していても見えてしまうもの。それは恋心。どんなに上手く隠した気になっていても心は正直だ。
タワーマンション二十三階の玲夏の部屋でなぎさは早河からの連絡を待っていた。今日最後の仕事を終えて玲夏のマンションに帰って来たのが1時間前。
速水杏里から事の真相を聞き出した早河は黒幕のもとに向かった。すべてが終わったら連絡するとのことだったが、まだ彼から連絡はない。
テーブルの上に置かれたなぎさの携帯電話が着信を告げた。着信表示は早河の名前だ。高まる緊張、通話ボタンを押す手も強張っていた。
早河からの電話を受けて要件を聞き終えた彼女は大きく息を吐いた。同じ部屋にいる玲夏は窓辺に立って雨空を見ている。
「沢木乃愛が逮捕されました。玲夏さんへの嫌がらせも、平井の殺害も認めているようです」
「……そう。乃愛ちゃんが……」
彼女はそれだけしか答えない。今の玲夏が何を考えているのか、なぎさにはわからない。でも乃愛の逮捕にショックを受けていることは間違いない。
ソファーに腰を降ろした玲夏は紅茶のカップに手を伸ばす。ぬるくなった紅茶を一口飲んだ彼女は視線を上げた。
「なぎさちゃん。ありがとうね。神戸ロケの時はあなたがいてくれて心強かった」
「私は何も……。潜入調査が無事にできたのは矢野さんのおかげです。結局、私は何のお役にも立てませんでした」
「そんなことないよ。沙織がいない間も付き人の仕事をこなしてくれたし、あなたの働きが仁の推理の手助けになったのよ。なぎさちゃんは自分が思うよりもずっと、人の役に立ってる」
気落ちしているのは明らかに玲夏の方だ。けれど彼女はこの状況を受け止めて前を向き、なぎさを気遣っている。
(私が玲夏さんを気遣わないといけないのに……玲夏さんには敵わないなぁ)
もしも早河と玲夏が復縁してしまえば、自分の入り込む隙はない。玲夏はとても、素敵な人だから。
「なぎさちゃんは仁のことが好きなんでしょう?」
「えっ……」
「なんとなくね、そうなのかなぁって。違う?」
隠していても見えてしまうもの。それは恋心。どんなに上手く隠した気になっていても心は正直だ。