早河シリーズ第四幕【紫陽花】
玲夏に早河への気持ちが知られていたことが恥ずかしくなってなぎさは顔を伏せた。
「……はい」
「やっぱりそっか。……うん、これで安心かな」
「安心?」
「仁の側に、仁のことを想ってくれる人がいて安心ってこと。アイツがひとりにならずに済むから」
玲夏の意味深な言葉の意味をなぎさは考える。ひとりにならずに済むとはどういう意味?
「仁のご両親が亡くなった経緯は知ってるんだよね?」
「少しですけど……ご両親の二人とも、前のカオスのキングだった辰巳に殺されたって……」
「私も詳しいことは2年前に、上野さんから聞かされたんだけどね。仁のご両親の死にそこまでの因縁があったなんて知らなかったから驚いたわよ。でもね、なぎさちゃんのお兄さんが亡くなった時にわかったの。仁は自分のせいで誰かが傷付くのを極端に嫌ってる。お母さんが自分を庇って亡くなったのは仁が小さな頃のはずなのに、もしかしたら無意識の自己防衛なのかな。アイツは大事な人に危険が及ぶ前にわざと自分から遠ざけてひとりになろうとするの」
玲夏の言葉の意味が理解できた。早河はわざと人を避けて孤独になろうとしていると感じる時がある。
「仁は愛することも愛されることも怖がってる。誰かを愛して、もしもその人を失ってしまったら……そう考えるとじゃあ愛さない方が傷付かない、それが仁の心の防御なの。私はアイツの防御を壊せなかった。でもなぎさちゃんなら、仁の防御を解ける気がする」
「私が?」
「仁はあなたのこと、かなり大切に思ってるみたいだからね」
その一言の威力は凄まじかった。紅茶を飲んでいたなぎさは噎《む》せて、何度も咳き込んだ。玲夏が笑ってなぎさにティッシュを渡す。
「大丈夫?」
「すいません……。いきなりびっくりすることを言われて……」
「仁に大切にされてることがそんなに意外?」
なぎさはティッシュで口元を拭い、頬に触れた。顔が熱くなっているのは噎せたからだけではない。
「はい。嬉しいような信じられないような……」
「素直ねぇ。アイツがなぎさちゃんを大切に想ってることは信じていいのよ。私はもう仁とのことは終わりにしたの。今日、仁に振られたんだ」
「振られたって……ええっ?」
「お前とはやり直せないってハッキリ言われたわ。女優を振るとはいい根性してるよね。あのバカ男、後悔しても知らないよってね」
あっけらかんと語る玲夏と唖然とするなぎさ。優しく微笑む玲夏は今まで見たどんな“本庄玲夏”よりも美しく、慈愛に満ちていた。
「だから安心して仁の側にいてあげて。でも仁は自分のことには鈍い男だから振り向かせるのは大変かも」
「……頑張ります」
二人の女は笑い合った。
雨はまだ止まない。でも必ず止むこともわかっている。いつか訪れる晴れの日まで泣いているより、笑って過ごそう。
大切な人と、一緒に。
「……はい」
「やっぱりそっか。……うん、これで安心かな」
「安心?」
「仁の側に、仁のことを想ってくれる人がいて安心ってこと。アイツがひとりにならずに済むから」
玲夏の意味深な言葉の意味をなぎさは考える。ひとりにならずに済むとはどういう意味?
「仁のご両親が亡くなった経緯は知ってるんだよね?」
「少しですけど……ご両親の二人とも、前のカオスのキングだった辰巳に殺されたって……」
「私も詳しいことは2年前に、上野さんから聞かされたんだけどね。仁のご両親の死にそこまでの因縁があったなんて知らなかったから驚いたわよ。でもね、なぎさちゃんのお兄さんが亡くなった時にわかったの。仁は自分のせいで誰かが傷付くのを極端に嫌ってる。お母さんが自分を庇って亡くなったのは仁が小さな頃のはずなのに、もしかしたら無意識の自己防衛なのかな。アイツは大事な人に危険が及ぶ前にわざと自分から遠ざけてひとりになろうとするの」
玲夏の言葉の意味が理解できた。早河はわざと人を避けて孤独になろうとしていると感じる時がある。
「仁は愛することも愛されることも怖がってる。誰かを愛して、もしもその人を失ってしまったら……そう考えるとじゃあ愛さない方が傷付かない、それが仁の心の防御なの。私はアイツの防御を壊せなかった。でもなぎさちゃんなら、仁の防御を解ける気がする」
「私が?」
「仁はあなたのこと、かなり大切に思ってるみたいだからね」
その一言の威力は凄まじかった。紅茶を飲んでいたなぎさは噎《む》せて、何度も咳き込んだ。玲夏が笑ってなぎさにティッシュを渡す。
「大丈夫?」
「すいません……。いきなりびっくりすることを言われて……」
「仁に大切にされてることがそんなに意外?」
なぎさはティッシュで口元を拭い、頬に触れた。顔が熱くなっているのは噎せたからだけではない。
「はい。嬉しいような信じられないような……」
「素直ねぇ。アイツがなぎさちゃんを大切に想ってることは信じていいのよ。私はもう仁とのことは終わりにしたの。今日、仁に振られたんだ」
「振られたって……ええっ?」
「お前とはやり直せないってハッキリ言われたわ。女優を振るとはいい根性してるよね。あのバカ男、後悔しても知らないよってね」
あっけらかんと語る玲夏と唖然とするなぎさ。優しく微笑む玲夏は今まで見たどんな“本庄玲夏”よりも美しく、慈愛に満ちていた。
「だから安心して仁の側にいてあげて。でも仁は自分のことには鈍い男だから振り向かせるのは大変かも」
「……頑張ります」
二人の女は笑い合った。
雨はまだ止まない。でも必ず止むこともわかっている。いつか訪れる晴れの日まで泣いているより、笑って過ごそう。
大切な人と、一緒に。