早河シリーズ第四幕【紫陽花】
 ドラマ【黎明の雨】は降板した沢木乃愛の代役を立てて撮り直すらしい。
速水杏里は黎明の雨の撮影を最後に芸能界を引退する。杏里の続投は玲夏が監督に掛け合って説得して決まったようだ。

脅されていたとしても事務所に嫌がらせをして自分を殺そうとした杏里に、女優として最後の花道を作ってやるのは玲夏らしい。

 黎明の雨が放送する時は観てみようと思う。きっと、放送日を早河が忘れていてもなぎさが覚えて録画しているだろう。

 玲夏が帰った後、早河は窓辺に座り込み、玲夏に指摘された髭の伸びた顎をさすって青く広がる空を眺めた。

 空けた窓の網戸越しに子供の笑い声が聞こえる。すぐ側の公園で遊ぶ子供達の声だ。
梅雨の晴れ間を楽しむ近所の子供達のはしゃぐ声に何故か救われた気持ちになった。

誰にでも無邪気に笑っていた子供時代があるはずなのに、どうして大人になると人は汚れてしまうのか。

 昨夜、警視庁に留置されている乃愛に面会した時に彼女は言っていた。

「ファントムは芸能界に詳しい人間かもしれない」……と。乃愛の心を巧みに操り犯罪の闇に引きずり込んだファントムとは何者なのか。

 外は晴れ。暖かな日差しの下で元気に遊び回る子供達の声が早河の耳にこだました。



第五章 END
→エピローグに続く
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