早河シリーズ第四幕【紫陽花】
──東京──
聞き込みを終えて警視庁に戻ってきた小山真紀はロビーで科捜研の男性職員の小坂に呼び止められた。小坂がA4サイズの封筒を真紀に渡す。
『頼まれていたヤツ、鑑定しておきましたよ』
「ありがとう。何かわかった?」
『微量ですが、便箋から整髪料の成分が検出されました。あと犬の毛』
「犬?」
真紀は封筒から出した資料の束をめくった。玲夏に届いた脅迫の手紙の鑑定結果だ。
『DNAデータベースにあったチワワの毛と照合してみると類似度70%だったので間違いなく犬の毛です』
「犬かぁ。犯人が飼ってる犬の毛が便箋についたのか……」
『それ、小山さんが追ってる明鏡大の事件とは別件って言ってましたけど、まさか小山さんが単独で抱えてる案件ですか? 鑑定した手紙、女優の本庄玲夏宛ですよね』
「まぁ……ちょっと個人的な頼まれ事なのよ。でも上司の許可はもらってるから」
小坂の探りを入れる目付きを無視して真紀は資料にざっと目を通した。
「成分から特定できたこの“天使のシャワー”って整髪料、女物よね?」
『はい。うちの女性職員が言ってましたけど、えっと、なんでしたっけ、あのアイドルっぽい子……。芸能界には疎いのでそちらの方面はよくわかりませんが、なんとかノアってタレントがCMで宣伝してる5月発売の女性用ヘアトリートメントの成分です。その商品はスプレータイプで、スプレーした時に空気中に飛沫した成分が便箋に付着したんだと思います』
小坂は外した眼鏡を白衣の袖で拭いている。
(小坂くんて、ボサボサの髪整えて眼鏡を外せばけっこうイケてる風なのに……。しかしなぁ、玲夏への嫌がらせの手紙に付着していた成分が女性用のトリートメント……まさか犯人は女?)
後でドラッグストアに寄って天使のシャワーの現物を見てこよう。その商品をCMで宣伝しているのはタレントの“なんとかノア”と小坂が言っていたが、それだけでは誰のことだかさっぱりわからない。
聞き込みを終えて警視庁に戻ってきた小山真紀はロビーで科捜研の男性職員の小坂に呼び止められた。小坂がA4サイズの封筒を真紀に渡す。
『頼まれていたヤツ、鑑定しておきましたよ』
「ありがとう。何かわかった?」
『微量ですが、便箋から整髪料の成分が検出されました。あと犬の毛』
「犬?」
真紀は封筒から出した資料の束をめくった。玲夏に届いた脅迫の手紙の鑑定結果だ。
『DNAデータベースにあったチワワの毛と照合してみると類似度70%だったので間違いなく犬の毛です』
「犬かぁ。犯人が飼ってる犬の毛が便箋についたのか……」
『それ、小山さんが追ってる明鏡大の事件とは別件って言ってましたけど、まさか小山さんが単独で抱えてる案件ですか? 鑑定した手紙、女優の本庄玲夏宛ですよね』
「まぁ……ちょっと個人的な頼まれ事なのよ。でも上司の許可はもらってるから」
小坂の探りを入れる目付きを無視して真紀は資料にざっと目を通した。
「成分から特定できたこの“天使のシャワー”って整髪料、女物よね?」
『はい。うちの女性職員が言ってましたけど、えっと、なんでしたっけ、あのアイドルっぽい子……。芸能界には疎いのでそちらの方面はよくわかりませんが、なんとかノアってタレントがCMで宣伝してる5月発売の女性用ヘアトリートメントの成分です。その商品はスプレータイプで、スプレーした時に空気中に飛沫した成分が便箋に付着したんだと思います』
小坂は外した眼鏡を白衣の袖で拭いている。
(小坂くんて、ボサボサの髪整えて眼鏡を外せばけっこうイケてる風なのに……。しかしなぁ、玲夏への嫌がらせの手紙に付着していた成分が女性用のトリートメント……まさか犯人は女?)
後でドラッグストアに寄って天使のシャワーの現物を見てこよう。その商品をCMで宣伝しているのはタレントの“なんとかノア”と小坂が言っていたが、それだけでは誰のことだかさっぱりわからない。