早河シリーズ第四幕【紫陽花】
 小坂に礼を言い、エレベーターホールでエレベーターの到着を待つ。警視庁は地上十八階地下四階の建物でエレベーターは留置人用の一基を含めて十八基ある。

下りを示す表示のエレベーターの扉が開いた途端、中から男達が溢れるほど降りてきた。身なりから一目で組織犯罪対策部の刑事達だとわかる。

(組対《そたい》がこんなに出払っていくなんて何かあったの?)

降りてきた軍団の中には真紀の上司、捜査一課警部の上野恭一郎の先輩刑事にあたる石川警部の姿もあった。

 物々しい雰囲気でロビーを闊歩する彼らを見送って真紀はエレベーターで捜査一課のフロアに向かう。

捜査一課に到着してホッとした。やはりここが今の自分のホームだ。一課のフロアはほとんどの捜査員が不在だった。
残っているのは同じ班の原昌也くらいだ。

『小山、今戻ったか。ちょうど組対の連中がぞろぞろ出ていったとこだろ?』
「はい。組対があんなに出ていくなんて何かあったんですか?」

 真紀はジャケットを脱いで椅子の背にかけた。今日は梅雨時らしい蒸し暑さだ。原はけだるそうにパソコンに向かっている。

『九州牛耳ってる高瀬組が反乱起こしたらしい。福岡県警の要請でうちの組対が今から九州飛ぶんだよ』
「九州の高瀬組……この前、組のNo.2が出所してから内部抗争が起きていましたよね」

カウンターに置いてある今日の朝刊を開いた。現在捜査中の明鏡大学准教授の殺人事件に関する記事が載っているが、真紀が見たのは天気予報の欄だ。

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  2009年6月8日 月曜日の天気

  東京・曇り時々晴れ
  降水確率・午前50% 午後40%

  神戸・曇りのち雨
  降水確率・午前50% 午後80%

  福岡・雨
  降水確率・午前70% 午後90%
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(神戸は夜に雨か。玲夏の撮影大丈夫かな)

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