早河シリーズ第四幕【紫陽花】
容疑者リストの人間であとなぎさが接触していないのはADの平井だけ。ちょうど彼は今ひとりだ。平井の仕事を手伝うついでに探りを入れることにした。
『すみません。本庄さんの付き人さんにこんなこと手伝わせて……』
「かまいません。玲夏さんにはスタッフの方の仕事をお手伝いするのも付き人の仕事だと教わっています。……平井さんは俳優志望だったそうですね。うちの事務所の吉岡社長から聞きました」
『はい。10年も前の話ですが……。吉岡さんに怒られていたのも今では良い思い出です』
短く刈り上げた髪に長身で引き締まった体格の平井は、顔立ちもそれなりに整っていて役者志望なのも頷ける。しかし容姿だけでやっていけるほど芸能界は甘くない。
『役者にも役割があります。皆が本庄さんや一ノ瀬さんのように主演を張れる人ばかりじゃない。脇を固めていい味付けをする役者がいてこそ、主演もより輝きます。僕も主演は無理なら主演を引き立てる脇を目指そうと思っていたんですけどね。僕には脇役も無理だったんですよ』
口調はさらりとしているが、まだ捨てきれない役者への未練がありそうだ。もし平井がまだ役者への強い思いを引きずっているとすれば、役者生命を絶つ原因となった吉岡社長を憎んでいるかもしれない。
「でも平井さんは今のお仕事もちゃんとこなされていて、役者さん達のワガママにも嫌な顔もしないで聞いていて凄いですよ」
『ありがとうございます。そんな風に言ってくれるのは秋山さんだけですよ』
照れ臭く頭を掻く彼に、玲夏に言い寄っていた件を聞こうか迷った。
探りには引くことも大事と早河が言っていた。これ以上の詮索は不審に思われそうだ。
なぎさは探りを入れるのを諦め、平井と他愛のない話をしながら作業を終えた頃には午後6時が近かった。
『すみません。本庄さんの付き人さんにこんなこと手伝わせて……』
「かまいません。玲夏さんにはスタッフの方の仕事をお手伝いするのも付き人の仕事だと教わっています。……平井さんは俳優志望だったそうですね。うちの事務所の吉岡社長から聞きました」
『はい。10年も前の話ですが……。吉岡さんに怒られていたのも今では良い思い出です』
短く刈り上げた髪に長身で引き締まった体格の平井は、顔立ちもそれなりに整っていて役者志望なのも頷ける。しかし容姿だけでやっていけるほど芸能界は甘くない。
『役者にも役割があります。皆が本庄さんや一ノ瀬さんのように主演を張れる人ばかりじゃない。脇を固めていい味付けをする役者がいてこそ、主演もより輝きます。僕も主演は無理なら主演を引き立てる脇を目指そうと思っていたんですけどね。僕には脇役も無理だったんですよ』
口調はさらりとしているが、まだ捨てきれない役者への未練がありそうだ。もし平井がまだ役者への強い思いを引きずっているとすれば、役者生命を絶つ原因となった吉岡社長を憎んでいるかもしれない。
「でも平井さんは今のお仕事もちゃんとこなされていて、役者さん達のワガママにも嫌な顔もしないで聞いていて凄いですよ」
『ありがとうございます。そんな風に言ってくれるのは秋山さんだけですよ』
照れ臭く頭を掻く彼に、玲夏に言い寄っていた件を聞こうか迷った。
探りには引くことも大事と早河が言っていた。これ以上の詮索は不審に思われそうだ。
なぎさは探りを入れるのを諦め、平井と他愛のない話をしながら作業を終えた頃には午後6時が近かった。