早河シリーズ第四幕【紫陽花】
時計の針が午後4時を少し過ぎた頃に事務所の扉が開いて、この事務所の所長の早河仁が入ってきた。
『夕方から雨が酷くなるって天気予報大当たりだな』
「雷も鳴ってますね。嫌だなぁ……」
なぎさは窓の外を見て溜息をつく。強さを増した雨粒が窓に打ち付けている。遠くには黒い雲が見え、稲妻が光っていた。
『こんな嵐の日にわざわざやってくるなんて一体どんなお客様だろうな』
「セレブっぽい美人ですよ。……多分」
『セレブねぇ……。まずは用件を聞いてみるか』
早河がパーティションの向こうへ行こうとしたその時、奥から例の女が姿を現した。
「久しぶりね。仁」
女は早河の前で立ち止まる。早河は目を見開き驚いた顔でその場に立ち尽くしていた。
『……玲夏?』
なぎさは早河の小さな呟きを聞いた。
(レイカ? 所長の知り合い?)
女がサングラスを外す。なぎさは彼女の顔を見て「あっ!」と声を出した。
「もしかして……本庄玲夏……?」
嵐の日に早河探偵事務所を訪れた来客は人気女優の本庄玲夏だった。
早河を見ると彼はなぎさが今まで見たことのない表情で玲夏を見つめている。早河の玲夏を見る眼差しに、なぎさは心に棘が刺さったような痛みを感じた。
この痛みの正体はなに?
『玲夏、どうしたんだ?』
わずかな沈黙の後、早河は固い表情のまま玲夏に問う。
まただ。彼が『玲夏』と名前を呼んだ時にまた、なぎさの心が痛んだ。
「もちろん、あなたに仕事を頼みに来たの」
『……わかった。話を聞くよ。なぎさ、コーヒーと紅茶を頼む』
「はい」
早河の態度と突然訪れた心の変化に戸惑いを感じながら、なぎさは再び給湯室に向かった。コーヒーは早河で紅茶は玲夏の分だ。
最初に応接室に玲夏を案内した時、コーヒーか紅茶のどちらがいいか尋ねると玲夏は紅茶を選んだ。早河は玲夏に何も聞かずに玲夏の飲み物として紅茶をなぎさに頼んだ。
それは玲夏が紅茶を選ぶことを知っているから? 彼女の好みを知っていたから?
あの二人はどんな関係?
『夕方から雨が酷くなるって天気予報大当たりだな』
「雷も鳴ってますね。嫌だなぁ……」
なぎさは窓の外を見て溜息をつく。強さを増した雨粒が窓に打ち付けている。遠くには黒い雲が見え、稲妻が光っていた。
『こんな嵐の日にわざわざやってくるなんて一体どんなお客様だろうな』
「セレブっぽい美人ですよ。……多分」
『セレブねぇ……。まずは用件を聞いてみるか』
早河がパーティションの向こうへ行こうとしたその時、奥から例の女が姿を現した。
「久しぶりね。仁」
女は早河の前で立ち止まる。早河は目を見開き驚いた顔でその場に立ち尽くしていた。
『……玲夏?』
なぎさは早河の小さな呟きを聞いた。
(レイカ? 所長の知り合い?)
女がサングラスを外す。なぎさは彼女の顔を見て「あっ!」と声を出した。
「もしかして……本庄玲夏……?」
嵐の日に早河探偵事務所を訪れた来客は人気女優の本庄玲夏だった。
早河を見ると彼はなぎさが今まで見たことのない表情で玲夏を見つめている。早河の玲夏を見る眼差しに、なぎさは心に棘が刺さったような痛みを感じた。
この痛みの正体はなに?
『玲夏、どうしたんだ?』
わずかな沈黙の後、早河は固い表情のまま玲夏に問う。
まただ。彼が『玲夏』と名前を呼んだ時にまた、なぎさの心が痛んだ。
「もちろん、あなたに仕事を頼みに来たの」
『……わかった。話を聞くよ。なぎさ、コーヒーと紅茶を頼む』
「はい」
早河の態度と突然訪れた心の変化に戸惑いを感じながら、なぎさは再び給湯室に向かった。コーヒーは早河で紅茶は玲夏の分だ。
最初に応接室に玲夏を案内した時、コーヒーか紅茶のどちらがいいか尋ねると玲夏は紅茶を選んだ。早河は玲夏に何も聞かずに玲夏の飲み物として紅茶をなぎさに頼んだ。
それは玲夏が紅茶を選ぶことを知っているから? 彼女の好みを知っていたから?
あの二人はどんな関係?