早河シリーズ第四幕【紫陽花】
兵庫県警神戸中央署の刑事達がホテルに到着したのは通報の10分後だった。
一同は事件現場となった宴会場の隣の部屋に移動した。披露宴などで使用される大広間にはテーブルクロスがかけられていない剥き出しのテーブルが並んでいる。
関係者達は思い思いの席に座り、平井が倒れた状況を刑事に事細かに尋ねられた。
『……そうすると、亡くなった平井さんが宴会場で朝食のチェックをしている最中にその場にいたのは矢野さんと秋山さんの二人ということですね』
神戸中央署の野崎晋太郎警部は矢野となぎさに鋭い視線を向けた。矢野の推理通り、毒物は平井の湯呑みの底から検出された。
(この馬面刑事、俺となぎさちゃんを疑っているのか?)
野崎の視線が好意的ではないことを感じた彼は心の中で溜息をついた。
野崎が矢野となぎさのテーブルに歩み寄る。獲物を見つけた時の獣の目をした野崎の視界には矢野となぎさしか映らない。
『あんた達のどちらか、または二人で共謀して平井さんの湯呑みに毒を入れることはできたわけだ』
『あのさぁ、刑事さん。平井さんの席には平井さんの名前入りのネームプレートが置いてある。すでに朝食が用意された後に宴会場に忍び込んで平井さんの湯呑みに毒を仕込むことは誰にでもできたんだ』
野崎の短絡的な考えにうんざりして、矢野は真っ向から彼を睨む。朝食準備の段階で平井と一緒にいた、それだけの理由で犯人にされてはたまらない。
『確かに誰にでも平井さんを殺害する機会はある。ホテルのスタッフが宴会場に朝食の準備をしたのが6時10分頃、平井さんも一緒に準備を手伝ったらしい。準備を終えたスタッフが宴会場を出たのが6時30分頃、矢野さんが宴会場に来たのが……』
『6時50分頃だ』
6時40分頃まで三階のロビーで蓮と雑談をし、非常階段の位置やホテルの内部のセキュリティを調べた後に宴会場に向かった。矢野が宴会場に着いたのは50分くらいだろう。
『朝食準備が終わった6時30分から40分頃まで平井さんは宴会場を離れてフロントに行っていたこと確認されている。この6時30分から6時40分の10分間、宴会場は無人だった。その間に何者かが宴会場に忍び込んで平井さんの湯呑みに毒を仕込んだ』
「あのぅ……そんな危ない橋を渡るようなことをしなくても湯呑みに毒を入れることは出来たんじゃないでしょうか?」
この場に似合わない可愛らしい声で、遠慮がちに発言したのは撮影チーム最年少の沢木乃愛だ。役者もスタッフも刑事も、大広間にいる全員の視線が乃愛に集まる。
『あなたは……沢木さんでしたね。今のはどういう意味です?』
「私、推理小説が好きでよく読むんですけど、毒は最初から湯呑みに入れてあったってことはないですか? ロシアンルーレットのように、たまたま毒入りの湯呑みが平井さんに当たってしまっただけで平井さんを狙ったとは限らないのではないかと……」
『つまり、朝食のセッティングの段階で毒はすでに湯呑みに仕込まれていて、犯人は平井さんではなく無差別に誰かを狙った、そう言いたいのかな?』
「あの、そういう考えもあるかなぁと思っただけで……」
野崎の乃愛に対する口調や態度はずいぶんとソフトな対応だ。
一同は事件現場となった宴会場の隣の部屋に移動した。披露宴などで使用される大広間にはテーブルクロスがかけられていない剥き出しのテーブルが並んでいる。
関係者達は思い思いの席に座り、平井が倒れた状況を刑事に事細かに尋ねられた。
『……そうすると、亡くなった平井さんが宴会場で朝食のチェックをしている最中にその場にいたのは矢野さんと秋山さんの二人ということですね』
神戸中央署の野崎晋太郎警部は矢野となぎさに鋭い視線を向けた。矢野の推理通り、毒物は平井の湯呑みの底から検出された。
(この馬面刑事、俺となぎさちゃんを疑っているのか?)
野崎の視線が好意的ではないことを感じた彼は心の中で溜息をついた。
野崎が矢野となぎさのテーブルに歩み寄る。獲物を見つけた時の獣の目をした野崎の視界には矢野となぎさしか映らない。
『あんた達のどちらか、または二人で共謀して平井さんの湯呑みに毒を入れることはできたわけだ』
『あのさぁ、刑事さん。平井さんの席には平井さんの名前入りのネームプレートが置いてある。すでに朝食が用意された後に宴会場に忍び込んで平井さんの湯呑みに毒を仕込むことは誰にでもできたんだ』
野崎の短絡的な考えにうんざりして、矢野は真っ向から彼を睨む。朝食準備の段階で平井と一緒にいた、それだけの理由で犯人にされてはたまらない。
『確かに誰にでも平井さんを殺害する機会はある。ホテルのスタッフが宴会場に朝食の準備をしたのが6時10分頃、平井さんも一緒に準備を手伝ったらしい。準備を終えたスタッフが宴会場を出たのが6時30分頃、矢野さんが宴会場に来たのが……』
『6時50分頃だ』
6時40分頃まで三階のロビーで蓮と雑談をし、非常階段の位置やホテルの内部のセキュリティを調べた後に宴会場に向かった。矢野が宴会場に着いたのは50分くらいだろう。
『朝食準備が終わった6時30分から40分頃まで平井さんは宴会場を離れてフロントに行っていたこと確認されている。この6時30分から6時40分の10分間、宴会場は無人だった。その間に何者かが宴会場に忍び込んで平井さんの湯呑みに毒を仕込んだ』
「あのぅ……そんな危ない橋を渡るようなことをしなくても湯呑みに毒を入れることは出来たんじゃないでしょうか?」
この場に似合わない可愛らしい声で、遠慮がちに発言したのは撮影チーム最年少の沢木乃愛だ。役者もスタッフも刑事も、大広間にいる全員の視線が乃愛に集まる。
『あなたは……沢木さんでしたね。今のはどういう意味です?』
「私、推理小説が好きでよく読むんですけど、毒は最初から湯呑みに入れてあったってことはないですか? ロシアンルーレットのように、たまたま毒入りの湯呑みが平井さんに当たってしまっただけで平井さんを狙ったとは限らないのではないかと……」
『つまり、朝食のセッティングの段階で毒はすでに湯呑みに仕込まれていて、犯人は平井さんではなく無差別に誰かを狙った、そう言いたいのかな?』
「あの、そういう考えもあるかなぁと思っただけで……」
野崎の乃愛に対する口調や態度はずいぶんとソフトな対応だ。