早河シリーズ第四幕【紫陽花】
野崎の脅しにも怯まずに矢野は口元を斜めにして微笑する。身元を調べたいなら好きにすればいい。
早河探偵事務所のことや財務大臣である伯父の情報もいつかは野崎に知られるだろう。
『俺はただの付き人ですよ』
『……ふん。まぁいい。あんたの素性はじっくり探ってやる。秋山さんも一緒に来てもらいましょう』
「ちょっと待ってよ! 彼女は私の……」
「玲夏さん、いいんです」
なぎさは野崎に抗議の声をあげる玲夏を制して立ち上がる。
自分達が玲夏に届いた例の手紙の差出人を突き止めるために潜入調査をしていることは、公にはできない。刑事に素性を明かすのならばドラマ関係者がいない場所の方が都合がいい。
なぎさの意図を汲み取った玲夏が口をつぐむ。蓮も歯痒そうに矢野となぎさを見ている。
矢野となぎさを連れて行こうとする野崎のもとに若い刑事が駆け寄って来た。部下と内密な会話をしていた野崎の表情が険しくなる。
わざとらしく咳払いをした野崎は一同に向けて言葉を放った。
『えー……皆さん聞いてください。平井さんが泊まっていた部屋から毒物の入った容器を発見しました。容器からは平井さんの指紋も検出されています。これは殺人ではなく、平井さんは自殺したのだと思われます』
再び大広間に衝撃が走った。隣の席同士で噂話をする者達、困惑して顔を伏せる者、反応は様々だ。
『刑事さん。自殺だとしたらこの二人を警察に連れていく必要はなくなりましたよね?』
挙手をした蓮が野崎に確認する。野崎はもう一度咳払いをして、矢野に近付いた。
『……命拾いしたな』
部下を連れて大広間を出る野崎警部の背中を矢野は睨み付ける。どうせ野崎はこの後に自分の身元を調べるだろう。だが、そんなことはどうでもよかった。
『一輝、どうした? 浮かない顔してるな』
『釈然としないと言うか、引っ掛かるんですよ。部屋に毒物の容器があったからって自殺と断定するのも、わざわざ皆がいる前で湯呑みに毒を仕込んで自殺するのも……。これはそんなに単純な事件じゃない』
矢野の疑問に、なぎさも蓮も玲夏も誰も答えられない。四人はそれぞれ黙り込んで平井の死の真相に考えを巡らせた。
早河探偵事務所のことや財務大臣である伯父の情報もいつかは野崎に知られるだろう。
『俺はただの付き人ですよ』
『……ふん。まぁいい。あんたの素性はじっくり探ってやる。秋山さんも一緒に来てもらいましょう』
「ちょっと待ってよ! 彼女は私の……」
「玲夏さん、いいんです」
なぎさは野崎に抗議の声をあげる玲夏を制して立ち上がる。
自分達が玲夏に届いた例の手紙の差出人を突き止めるために潜入調査をしていることは、公にはできない。刑事に素性を明かすのならばドラマ関係者がいない場所の方が都合がいい。
なぎさの意図を汲み取った玲夏が口をつぐむ。蓮も歯痒そうに矢野となぎさを見ている。
矢野となぎさを連れて行こうとする野崎のもとに若い刑事が駆け寄って来た。部下と内密な会話をしていた野崎の表情が険しくなる。
わざとらしく咳払いをした野崎は一同に向けて言葉を放った。
『えー……皆さん聞いてください。平井さんが泊まっていた部屋から毒物の入った容器を発見しました。容器からは平井さんの指紋も検出されています。これは殺人ではなく、平井さんは自殺したのだと思われます』
再び大広間に衝撃が走った。隣の席同士で噂話をする者達、困惑して顔を伏せる者、反応は様々だ。
『刑事さん。自殺だとしたらこの二人を警察に連れていく必要はなくなりましたよね?』
挙手をした蓮が野崎に確認する。野崎はもう一度咳払いをして、矢野に近付いた。
『……命拾いしたな』
部下を連れて大広間を出る野崎警部の背中を矢野は睨み付ける。どうせ野崎はこの後に自分の身元を調べるだろう。だが、そんなことはどうでもよかった。
『一輝、どうした? 浮かない顔してるな』
『釈然としないと言うか、引っ掛かるんですよ。部屋に毒物の容器があったからって自殺と断定するのも、わざわざ皆がいる前で湯呑みに毒を仕込んで自殺するのも……。これはそんなに単純な事件じゃない』
矢野の疑問に、なぎさも蓮も玲夏も誰も答えられない。四人はそれぞれ黙り込んで平井の死の真相に考えを巡らせた。