早河シリーズ第四幕【紫陽花】
矢野が蓮の携帯に電話をかけると、蓮は玲夏の部屋に居ると言う。矢野は六階の部屋を出て十一階の玲夏の部屋に向かった。
1103号室の玲夏の部屋はキングサイズの大きなベッドがあり、シングル部屋の矢野の部屋よりも広かった。
玲夏、蓮、なぎさ、矢野の四人が集合しても充分にスペースがある。
矢野が湯呑みの件を伝えると三人はそれぞれ戸惑いの表情を見せる。最も驚いているのは蓮だ。
『えーっと……話がよく見えねぇんだけど、俺と平井さん以外の湯呑みにはベタベタと他の奴らの指紋がついているのに俺と平井さんの湯呑みにだけは本人の指紋しかなかった?』
「つまり蓮と平井さんの湯呑みだけ誰かが指紋を拭き取ったってことになるの?」
『そう考えるのが妥当だと思います。じゃあどうして蓮さんと平井さんの湯呑みだけ指紋を拭き取る必要があったのかって話になりますが……毒入りの湯呑みは最初、蓮さんの席にあったんじゃないかと』
ベッドに腰掛けて腕組みをしていた蓮は唖然としている。
『あの毒入り湯呑みは俺の湯呑みだったってこと?』
『あくまでも仮説です。犯人……ここでは犯人Aと仮定しましょうか。犯人Aは朝食準備が終わって平井さんがフロントに行っている隙に無人になった宴会場に入って蓮さんの湯呑みに毒を仕込んだ。ここまでが犯人Aの行動です』
矢野の話をなぎさがメモ書きにしてまとめている。矢野はなぎさのメモの進捗《しんちょく》具合を見て、また話を始めた。
普段は事件の調査報告をする早河や矢野の話をなぎさが事務所のホワイトボードにまとめる役割をしている。こうしていると、いつもの早河探偵事務所のようだ。
『次に犯人Bが宴会場が宴会場に来ます。Bの仕事は毒入りの蓮さんの湯呑みと平井さんの湯呑みをすり替えること。念のため手袋をしていたかもしれませんが、すり替えた二つの湯呑みはハンカチで指紋を拭き取っておいた。そうすると蓮さんと平井さんの湯呑みにだけ、ホテルスタッフの指紋がないことの説明がつきます』
「犯人は二人いるってことですか?」
メモをとっていたなぎさが顔を上げた。矢野は首肯する。
『そして犯人が二人なら狙われたのも二人。犯人Aの狙いが蓮さん、犯人Bの狙いが平井さん……これが俺の仮説です』
矢野の仮説の説明が終了したタイミングで、全員が息をついた。それは安堵ではなく、困惑の溜息。
1103号室の玲夏の部屋はキングサイズの大きなベッドがあり、シングル部屋の矢野の部屋よりも広かった。
玲夏、蓮、なぎさ、矢野の四人が集合しても充分にスペースがある。
矢野が湯呑みの件を伝えると三人はそれぞれ戸惑いの表情を見せる。最も驚いているのは蓮だ。
『えーっと……話がよく見えねぇんだけど、俺と平井さん以外の湯呑みにはベタベタと他の奴らの指紋がついているのに俺と平井さんの湯呑みにだけは本人の指紋しかなかった?』
「つまり蓮と平井さんの湯呑みだけ誰かが指紋を拭き取ったってことになるの?」
『そう考えるのが妥当だと思います。じゃあどうして蓮さんと平井さんの湯呑みだけ指紋を拭き取る必要があったのかって話になりますが……毒入りの湯呑みは最初、蓮さんの席にあったんじゃないかと』
ベッドに腰掛けて腕組みをしていた蓮は唖然としている。
『あの毒入り湯呑みは俺の湯呑みだったってこと?』
『あくまでも仮説です。犯人……ここでは犯人Aと仮定しましょうか。犯人Aは朝食準備が終わって平井さんがフロントに行っている隙に無人になった宴会場に入って蓮さんの湯呑みに毒を仕込んだ。ここまでが犯人Aの行動です』
矢野の話をなぎさがメモ書きにしてまとめている。矢野はなぎさのメモの進捗《しんちょく》具合を見て、また話を始めた。
普段は事件の調査報告をする早河や矢野の話をなぎさが事務所のホワイトボードにまとめる役割をしている。こうしていると、いつもの早河探偵事務所のようだ。
『次に犯人Bが宴会場が宴会場に来ます。Bの仕事は毒入りの蓮さんの湯呑みと平井さんの湯呑みをすり替えること。念のため手袋をしていたかもしれませんが、すり替えた二つの湯呑みはハンカチで指紋を拭き取っておいた。そうすると蓮さんと平井さんの湯呑みにだけ、ホテルスタッフの指紋がないことの説明がつきます』
「犯人は二人いるってことですか?」
メモをとっていたなぎさが顔を上げた。矢野は首肯する。
『そして犯人が二人なら狙われたのも二人。犯人Aの狙いが蓮さん、犯人Bの狙いが平井さん……これが俺の仮説です』
矢野の仮説の説明が終了したタイミングで、全員が息をついた。それは安堵ではなく、困惑の溜息。