早河シリーズ第四幕【紫陽花】
なぎさの横を陣取る男は酔いが回った顔を彼女に近付けた。
『秋山さん、彼氏いないなら好きな人はいるの?』
「好きな人ですか? えっと……」
「あー! 秋山さんの顔、赤くなってるぅ。やっぱり好きな人いるんだぁ」
中西というタイムキーパーの女性がなぎさの変化にいち早く気付いた。なぎさは身ぶり手振りで否定する。
「違いますっ! これはお酒で……」
「秋山さん全然お酒飲んでないじゃない。苦しい嘘はダメよぉ? ほらほら、好きな人いるならいるって言っちゃいな! そうすればこの飢えた男達も退散するから」
『飢えた男達って中西ちゃん酷いなー。秋山さん本当に好きな奴いるの?』
全員が成人済みの社会人なのに彼らのノリはまるで修学旅行の中学生だ。いくつになっても酒の肴に盛り上がるのは噂話と恋愛の話。
視線を彷徨《さまよ》わせると矢野と蓮がにやけた顔でこちらを見ていた。
(矢野さんも一ノ瀬さんもなんであんなにニヤニヤしてるのよー!)
「好きな人は……います」
なぎさの回答に女性陣は盛り上がり、男性陣は落胆している。好きな人がいると言った瞬間に早河の顔が浮かんで、なぎさは自分でも困惑していた。
「新入りの歓迎会はそのくらいにして、そろそろこの子を解放してあげてね」
それまで監督や助監督と飲んでいた玲夏の鶴の一声で、なぎさを囲んでいた者達はバラバラに会場内に散っていった。
マネージャーの沙織を引き連れた玲夏がなぎさに歩み寄る。
「このドラマのスタッフ達は賑やかで良いんだけど、社交的過ぎるのが問題よね。大丈夫?」
「はい。ありがとうございました。対応に困っていたので助かりました」
「いいのよ。でも蓮も一輝くんも近くにいたのに人が悪いわね。なぎさちゃんが困ってるのをわかってたなら助けなさいよ」
ジロリと玲夏に睨まれた矢野と蓮はまだニヤニヤ笑っていた。
『なぎさちゃんが顔赤くしてるのが可愛くてさ。なぁ、一輝?』
『そうそう。好きな人いるって答えた時、誰の顔思い出してたのかなー?』
「えっ……いや、別に……」
矢野と蓮にからかわれてさらに顔が熱くなる。早河の顔が脳裏にちらついて離れてくれない。
「私の大事な付き人をいじめないの。なぎさちゃん、少し外に出ましょうか」
「けど、主演の玲夏さんがここにいないと……」
「平気平気。私、昔からこういう集まり苦手なのよね。ちょっと気分転換したいの。後は沙織が上手くやってくれるよ」
玲夏がマネージャーの沙織に目配せする。
『秋山さん、彼氏いないなら好きな人はいるの?』
「好きな人ですか? えっと……」
「あー! 秋山さんの顔、赤くなってるぅ。やっぱり好きな人いるんだぁ」
中西というタイムキーパーの女性がなぎさの変化にいち早く気付いた。なぎさは身ぶり手振りで否定する。
「違いますっ! これはお酒で……」
「秋山さん全然お酒飲んでないじゃない。苦しい嘘はダメよぉ? ほらほら、好きな人いるならいるって言っちゃいな! そうすればこの飢えた男達も退散するから」
『飢えた男達って中西ちゃん酷いなー。秋山さん本当に好きな奴いるの?』
全員が成人済みの社会人なのに彼らのノリはまるで修学旅行の中学生だ。いくつになっても酒の肴に盛り上がるのは噂話と恋愛の話。
視線を彷徨《さまよ》わせると矢野と蓮がにやけた顔でこちらを見ていた。
(矢野さんも一ノ瀬さんもなんであんなにニヤニヤしてるのよー!)
「好きな人は……います」
なぎさの回答に女性陣は盛り上がり、男性陣は落胆している。好きな人がいると言った瞬間に早河の顔が浮かんで、なぎさは自分でも困惑していた。
「新入りの歓迎会はそのくらいにして、そろそろこの子を解放してあげてね」
それまで監督や助監督と飲んでいた玲夏の鶴の一声で、なぎさを囲んでいた者達はバラバラに会場内に散っていった。
マネージャーの沙織を引き連れた玲夏がなぎさに歩み寄る。
「このドラマのスタッフ達は賑やかで良いんだけど、社交的過ぎるのが問題よね。大丈夫?」
「はい。ありがとうございました。対応に困っていたので助かりました」
「いいのよ。でも蓮も一輝くんも近くにいたのに人が悪いわね。なぎさちゃんが困ってるのをわかってたなら助けなさいよ」
ジロリと玲夏に睨まれた矢野と蓮はまだニヤニヤ笑っていた。
『なぎさちゃんが顔赤くしてるのが可愛くてさ。なぁ、一輝?』
『そうそう。好きな人いるって答えた時、誰の顔思い出してたのかなー?』
「えっ……いや、別に……」
矢野と蓮にからかわれてさらに顔が熱くなる。早河の顔が脳裏にちらついて離れてくれない。
「私の大事な付き人をいじめないの。なぎさちゃん、少し外に出ましょうか」
「けど、主演の玲夏さんがここにいないと……」
「平気平気。私、昔からこういう集まり苦手なのよね。ちょっと気分転換したいの。後は沙織が上手くやってくれるよ」
玲夏がマネージャーの沙織に目配せする。