早河シリーズ第四幕【紫陽花】
『悪いけど俺は乃愛を愛せない』
「やっぱり……蓮さんは玲夏さんが好きなの?」

涙を溜める乃愛の瞳を直視できなかった。蓮はしがみつく乃愛を無理やり引き離す。

『ああ。俺は玲夏を愛してる。だから乃愛の気持ちには応えられない』

 この気持ちを言葉にするのは初めてだった。言葉に出してしまえばこの気持ちは本物になってしまう。誤魔化して、見ないフリをしてきた気持ちに恋という名前がついてしまう。

 蓮から離れた乃愛はうつむき加減に部屋の中央に歩を進めた。
彼女は着ていた薄手のカーディガンを脱いで振り向いた。ノースリーブのワンピースから白くて華奢な肩が露になり、乃愛のカーディガンはソファーの背にかけられた。

「じゃあ、本気じゃないならいいんですね?」
『は?』
「本気じゃなくて遊びなら相手が乃愛でもいいでしょ? 蓮さん、遊びの女ならいっぱいいるじゃないですか。乃愛もその中に混ぜてください」

 妖しげな笑みを浮かべた乃愛が一歩ずつ近付いてくる。普段のふわふわとした可愛らしい雰囲気は消え去り、今の乃愛は遊女の役でも演じているような妖艶さを纏っていた。

『あのなぁ、どうしてそうなるんだ?』
「二番目でも三番目でもいい。蓮さんの側に居られるなら遊びでもいいの。乃愛ね……まだ処女なんです。お芝居でキスはしたことあるけど、それ以上はまだ……」

 乃愛は蓮の首に腕を回し、長身の蓮にぶら下がる体勢で彼にキスをする。触れ合わせるだけのキスが次第に深くなった。

「乃愛は蓮さんのためならなんでもできるよ。蓮さんが乃愛を欲しいならいくらでもあげる。蓮さんになら何されてもかまわない」

 蓮の目の前で乃愛はワンピースを脱いだ。シフォン素材の白いベビードールに覆われた彼女の姿に蓮の本能が揺さぶられる。
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